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柴田直樹

 初めて抱かれたのは、この寮に引っ越してきた日の事だった。  中学の卒業式が終わった3月中旬の、まだ寒さが残る頃。オレは……二人で寮に入ったら、また昔の二人に、仲の良い友達同士に戻れるって勝手に思ってたんだ。あの施設から出さえすれば万事上手くいく、蒼も元の蒼に、蒼とオレも元の友達に。  ずっとずっと見ないふりをしてたおれを、蒼が許してたわけなかったんだ。勝手に友達ヅラして、心配する口調で「大丈夫?」って機嫌を伺うようなおれ。助けられなかった癖に。そんなの、友達なんかじゃないよな。  引っ越し作業をした日、まぁ施設出のおれ達にそんな大層な持ち物が沢山あるわけもなく、あっという間に作業は終わった。家具は備え付けてあるから、持ってきた服だの日用品をしまうだけ。  引っ越しと言えば引っ越しそばだろって、寮の食堂で食べた後に近くのスーパーで買ってきたカップのそばを食べた。お湯を注ぐだけの簡単なやつ。  二人であそこから出られた祝い、引っ越しの祝いのつもりだったんだ。  食べ終わってから改めて蒼に言ったんだ。 「よろしくな、ルームメイト」 あの時の蒼の顔と言ったら…豆鉄砲くらったってのはあんな顔かな。その後肩を震わせて大笑いした後に 「お前、何言っちゃってんの?俺があそこ出ただけで気持ちが切り替えられたとでも?トラウマがなくなるとでも?お気楽な頭してんなぁ、直樹は。羨ましいくらいだぜ。俺がずっとあそこでどんな扱い受けてたか知らないわけじゃないだろうに。それともなに?直樹はただただジョギングしてただけ?俺の事関係なくジョギングしてただけで、あそこで起きてた事を知らなかったとでも?」 何も言葉が出なかった。この学校に誘ってくれたのは、友達だからだと思ってた。そんな風に思ってくれてるわけじゃなかったんだ。どうしたら許してもらえる? 「どうしたら許してもらえるの?みたいな顔して見える。いいぜ、とりあえず少しだけオレと同じ思いしてみようぜ直樹。まずは全部服脱げよ」    蒼が許してくれるかもしれない、そう思ったら何も抵抗なんかしなかった。同じ思いっていう言葉で何をされるか想像はついていた。でもそれで許してもらえるなら……。  初めての行為は痛くて痛くて屈辱的だったけれど、蒼が受けた傷はこんなもんじゃない。 「誰が今日だけ、一回だけなんて言った?」こうしておれは、蒼に言われた時には素直に抱かれるようになった。

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