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苛めのこと

 伊藤蒼はハーフで学業特待生、高校一年生である。  元々の色素の薄い茶系の髪は入学前に地毛であると認められ、そのままの色で入学、人当たりも良く誰とでも敬語で話す。嫌みもない。  当たり障りのない会話が得意だ。  それが鼻につくというわけでなく、穏やかな笑顔とたまにジョークも言える蒼は、クラスメイト誰からも適度に好かれ、適度に嫌われていなかった。  『当たり障りなく』そんなもの得意になるしかなかった。教室での蒼は全て上っ面で対応してる、作り物だ。  元々蒼はとある事件があるまでは、明るく、人の面倒を見るのが得意なごく普通の少年だった。ハーフで中性的な見た目と児童養護施設で育ったという以外はどこにでもいるような少年として育っていた。面倒見が良いという特徴は、施設で年下の子供達の面倒を見ていたから自然と身に付いたものだった。    それを学校でも同級生に発揮していたわけで、たまに蒼をうざいだの煙たがる友達もいたりした。根が明るく全て好意で手を出したがるのが分かる年になってからは、そんなに煙たがる友もいなかったが。  とある事件の後。  蒼は施設内で虐めにあうようになった。  それは壮絶なもので、明るい性格はみるみるうちにその姿をもなくしていった。いつも他人の顔を伺うようになり、自分の存在を圧し殺して目立たないように見つからないように。しかし、その生まれつきの髪色のせいで、目立たない事は無理だったのだ。そもそも施設内での苛めでターゲットは蒼なので見つからないというのも無理な話。  負けん気の強いところもあったので、自分はこんな事で負けない。また母と、双子の兄と暮らせば幸せになれるんだ、待ってれば絶対に迎えに来てくれるんだという気持ちだけで生きていたと言っても過言ではなかった。

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