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見知らぬおじさん

 だぁれと歌い終わったところで大人の声がした。 「君たち、この辺の子だね。おじさん、友達を訪ねてきたんだけど、道に迷ってしまって、ここなんだけど…」 手書きの地図らしいものをポケットから出してきたおじさんの手元にみんな駆け寄った。 「このちず、おじさんがかいたの?」 「そうだよ」 「おじさん、へたっぴ~」 小さい子達が笑う中、蒼と直樹はしっかり地図を理解しようとしていた。 「直樹、ここさぁ、図書館の方角に歩いて10分くらいだよな」 「うん。俺もそのくらいかなって思った」 「じゃぁ、俺案内してくるから直樹は時間になったらチビ達と帰ってて」  二人で案内するよりも、片方は小さい子達と一緒に帰って夕飯の手伝いに間に合った方が良いとの判断だった。  この選択が間違いだったと気づくのは数時間後。  帰宅後、チビ達と手洗いを済まし、夕飯の準備を手伝い配膳を終えた直樹は時計を見ておかしいなと思った。公園から10分程度の道を往復したとして20分。公園から愛育園まで5分程度。あおちゃんと別れてから、もう一時間程度はたっている。  おかしい。何となく胸騒ぎのようなものがした。どうしよう。あと少し待ったら普通に帰ってくるかもしれない。あと少し待とう。でも先に食べちゃうのは悪い気がする。あと少し。あまり園長とは話したくない。  他の子達が「いただきます」をして食べ始めた。どうしよう。胸騒ぎは収まらない。  頑張って、園長に話してみようか。あおちゃんが心配だ、俺が一瞬園長と話して嫌な気分になるくらいどうってことない。  自分の席から立ち上がって1人がけのテーブルで食べている園長のところまで行った。こんな事するのは初めてのことで近づいていくのすら緊張した。 「あの…園長先生」 「なんだ直樹。食事中は出歩くなと教えてあるだろう。なぜ決まりを破るんだ」    「あの、蒼くんが、知らない人が道に迷って困ってたから道案内してるんです。それにしては帰ってくるのが遅くて…僕、探しに行ってきても…良いですか?」 園長はさも面倒そうに舌打ちをする。だから嫌なんだ。決まりと守れと厳しく言う割に、厳しいのは自分が面倒な思いをしたくないからってのが見え見えなんだ。 「蒼が勝手に道草くってるだけだろう。遅れた者は夕飯抜き。それだけだ」 「でも、、、心配です」 「面倒を起こすな。お前も夕飯抜きでいいんだな」  夕飯一食と友達なら友達の方が大事だった。 「いいです、探してきます」 さっきおどおどしながら園長のところに向かったのが嘘みたいにハッキリと言葉に出来た。

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