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白い液体

 あおいくんは便座に座り、どうにか片足を伸ばしトイレのドアを抑えていたらしい。  コツンという音とともに、内開きの個室が一つ開いた。なおきくんには見せない方が良いと判断し、「待っててくれ」と伝える。  中には色素の薄いハーフらしき少年が洋式便座の蓋に腰かけてぐったりしていた。  相手が刃物を持っていたらしく、頬や首の所々から血が出ている。ズボンには白い液体もついていた。 「あおいくんかい?私はなおきくんと君を捜しに来たんだ」 「直樹は?」 「すぐ近くで待ってもらっている。呼んでいいのかい?」  声を出す代わりにこくんと頷かれた。 「なおきくん。来てもらえるかい?」 「あおちゃん!!」 返事もなく、なおきくんが飛んできた。それはそうだろう友達を心配してたから。 「あぁ、直樹…なっ、俺が行って良かっただろ…」 友達の無事を確認してから意識を失ったように見えた。なんて子だ、と思った。自分が怪我をして、どの程度か分からない性的虐待を受けたろうに、友達がそんな目に合わなくて良かったと安心してから意識を手離したようだった。  拭けるものはトイレットペーパーでさっと拭き、おんぶして自宅に連れていくことにした。どの程度の傷か分かってから病院に連れていけば良いだろう。急にここで救急車を呼んでもあおいくんと、なおきくんを混乱させるだけかもしれない。  なおきくんは「あおちゃん!あおちゃん!」と泣き叫んでいたけれど、私のうちに連れていって手当てしようと言い聞かせた。 「おうちに帰っていてもいいんだよ?」 「大丈夫です。僕の帰るところはあおちゃんと一緒だし、あおちゃん置いて行くなんて出来ないです。園長先生にもあおちゃん捜すって言ってから来たし…」 兄弟には見えない二人の帰る場所が同じだという事、園長先生という言葉。やはりこの子達は愛育園の子供達なんだなと思った。  暗くなった道を意識がない子供を背負って家路をゆく。小学校高学年ぐらいに見えるなおきくんとほぼ同級だと思えるあおいくんは、背負って歩ける程度の軽さだった。  この子達はまともに食事をしているのだろうか。先ほどは気づかなかったが、なおきくんの手足細い。今時の子供はこんなに細いものなのだろうか。  否、私が経営している高校の生徒たちにこんなに細い子供はいなかったように思う。  この子たちが成長段階なのだとしても、細いしこの身体は軽すぎるのではないか。

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