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お義父さん

 俺が10歳の時、新しいお義父さんが出来た。それまでお母さんと二人でまぁまぁ上手くやっていたと思っていたのに、その『財前』というおじさんは急に俺たちの前に現れた。  何でも、休日デパートで俺たち親子を見かけて、お母さんに一目惚れしたらしい。それから人を使って、素性を調べ、住んでる所も調べ、訪ねてきたと言った。おじさんは、お母さんの事を妖精のようだと言った。確かに、お母さんは日本で生まれて話すのは日本語だったけど、金髪の長い髪と青い目、長い手足で、おじさんが妖精って言うのも分からなくないかな~と思った。  俺も蒼もそっくりだったけど、瞳は青くはなかったから、それだけでも大きな違いだと思ってた。  おじさんとお母さんの話は長くなり、退屈だった俺は、途中から外に遊びに出た。今考えると、しっかり話を聞いておくべきだったんだと思う。    嫌、俺が聞いてたらおじさんは本当の事は言わなかっただろうから、きっとその場にいても、いなくても、この結果は変わらなかったんだろう。  結論から言うと、おじさんが一目惚れしたのは、お母さんじゃなくて俺だったようだ。  おじさんがアパートに来てから、数週間後に引っ越しのトラックがやってきた。そんなに沢山の荷物なんてなかったから、作業はすぐ終わったし、「洋服は全て用意しておくから、古いものは全部処分しておいで」そう言われてるからと、お母さんは俺の服を、今着てるの以外全部捨てた。そんな習慣なかったから、一気に自分の服が捨てられて不思議な感じだった。おじさんはお金持ちなんだな、生活が変わりそうだなという気持ちしかなかった。  蒼から完全に離れてしまう。向こうの家に住むようになったら、二度と会える可能性はなくなるのかもしれないと思った。  おじさんの家は大きなお屋敷だった。今まで住んでたアパートの部屋を全部足してもたりないくらいの大きさに見えた。  おじさんは玄関から出てきて「よく来たね」と迎えてくれた。  俺がなんて呼んでいいのか迷ってもじもじしていると「パパでもお義父さんでも好きなように呼んでくれると嬉しいな」と言われ、父親を呼んだ事がない俺は勇気をだして「お義父さん」と呼んでみた。  おじさんは目元をしわくちゃにして喜んでくれた。  今日からこの人が俺のお義父さんになるんだ。頭の中で何度も何度も『お義父さん』と呼ぶ練習をした。 「翠、お義父さんが出来て良かったわね」 お義父さんが嬉しいものなのか、なんなのかよく分からなかったけど、こんな大きな家ならお母さんの獣みたいな声を聞かなくて済むんだと思い、素直に頷いた。  

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