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「自分が汚したとこ掃除してから戻れよ。園長に見つかったらめんどくせぇからな。これからも俺が呼んだら来いよ。ここでは力が強い奴が有利なんだ。親に見捨てられた子供が救われる場所なんてないんだよ」  二人は先に出ていった。物置には掃除道具もあるものの、拭かなきゃならないのは血なので、道具で血を拭いたのが見つかると嫌なので、自分の下着で拭いて洗面所で下着を洗った。  4つ年上な男子二人にかかったら、自分は無力だってことをまざまざと見せつけられた。これからも、呼ばれたら行かなきゃならないんだ…。  それ以上に心にぐっさりと突き刺さって残ってしまったのは『親に見捨てられた子供が救われる場所なんてない』という言葉。  そっか、俺は捨てられたから誰も迎えに来ないんだ。しっくりきてしまった。 俺と兄の翠、見た目はそっくりだけど、きっとお母さんからしたら扱いやすいのは翠だったんだ。連れていきたいのも翠だったんだ。そんな事に今まで気付かずに待ってた俺はなんて馬鹿だったんだろう。だから昨日みたいな目に合ったんだ。待ってるなんて馬鹿な考えは捨てて、この場に合うように生きなきゃダメなんだ。  力の強い者に従う…嫌だけど、まだ力がない今はそうしなきゃならないんだ。 *   *   *  その日から、数日に一度は村田に呼び出されるようになった。  すごく嫌で、身体も拒絶して自然に逃げてしまう時もあるけれど、従順にしてればそこまで殴られたり痛いことはされない。  毎回お尻が裂けて傷になり、治ってきた頃に呼び出されては裂けるけれど、そこ以外は特に傷といった傷はなかった。  こいつらが施設からいなくなるのを待つしかない。俺が11歳、こいつらは4年上の15歳。早い奴なら、中学卒業と同時に全寮制の高校に入学して、ここを去るんだ。  遅い奴は、高校卒業と同時だ。期待を裏切られるのはツライから、二人が中学卒業でここをいなくなる想像はしないようにした。  何回もそんな夜を過ごした次の朝の事だった。  なぜか朝食の時にゆうこねぇが隣に座ったんだ。珍しい、初めてのことだったと思う。いつもは同年代の仲の良い女子たちと座ってたはずだから。もちろん俺の周りもそんな感じで、近くには直樹がいた。  揃っていただきますをしてすぐだった。 「この男女」 隣のゆうこねぇから声がしたと思ったら自分の太股に何か刺さった。 「ぎゃぁっ!!!」 「蒼。煩いぞ。静かに食べなさい」  案の定園長から注意された。 「ごめんなさい」  太股がズキズキして痺れて熱くて、見ると刺さってるのはフォークのようだった。右足に刺さってるとこからして、右側にいたゆうこねぇがやったんだろうけど、当の本人はもう知らない顔をして質素な朝食を食べている。園長にまた目をつけられるのも得じゃないのでズキズキ痛む中、座って朝食を食べた。ズキズキ、ズキズキ。太股に心臓があるみたい、太股に意識が集中してしまう。  ズキズキ。後でゆうこねぇに訊いてみようか。でもこんな事自分にしてきた相手と話すのは怖い。周りに怖い存在が増えてくようだった。  

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