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 結局ゆうこねぇには何も訊けないままに数日過ぎた。村田に呼び出されるのは相変わらずだ。痛くて苦しい中に、ほんの少し気持ちいい場所もあるのが怖い。嫌々させられてる行為なのに心とは反対に気持ちいい場所がある。そんな自分が気持ち悪い。  いっそ、その気持ち良い場所に身をまかせてしまえば楽にはなるんだろう。  でも、今楽になったところで、未来の自分がその過去を振り返る時、きっと死にたくなるほど嫌な気持ちになるに違いない。  ただ暴力をふるわれるのが怖くて従ってるだけの行為だから。  直樹には何をされてるか言ってない。数日置きにある呼び出しを気にした直樹が、ある晩「着いてく」って言い出したけど、きっぱりと、冷たいくらいの言葉で断った。 「直樹さ、どうしても気になるなら、俺が呼び出しされてる間ランニングでもしてたら?部屋にいても気になるんだろ?直樹には絶体に見られたくないから。お願いだから」 伝わったか分からないけど、俺が真剣に直樹に見られたくないって思ってる事は伝わったらしい。だれが、自分の世界にいる一番大事な人間に、自分が犯されてる姿を見せたいと思うだろう。  愛育園に来て間もない頃からずっと隣にいてくれた直樹は、今では俺の中で一番大切な存在だ。  母親より翠より長い時間を共に過ごしてる。  いつもの倉庫を開けると村田はもう待っていた。 「おせーよ葵」  いつも金魚のふんみたいにくっついてる岡村慶太がいない。狭い倉庫を見回してもいない。 「慶太はいねーよ。お前抵抗しないから、慶太必要ねーと思ってな。お前は俺のだからさ、あんましお前の身体あいつに見られんのも嫌なんだよ」    そんな勝手な。俺は暴力が怖くてされるがままになってるのに、お前は俺のとか当然のように言うようになった村田が最高に嫌いだった。愛なんてない、子供が覚えたてのエッチな行為を押し付けてくるだけ。なのに愛しい者に触るように、最近は俯せの俺の背中あちこちにキスをしたり髪を撫でたりしてくる。甘えてほしいと膝に座らされキスをねだってほしいと言ってくる。 「葵、好きだ。お前が一番可愛い。ずっと見てたんだ」  そんな言葉何も響かない。俺は操られた人形のように村田の言う通りにしてやるけど、気持ち悪いだけだ。  こんな優しくしてくるようになったなら抵抗してみればいいじゃないか。そう思ってもみるけど、殴られた時の事が甦ってきて怖くてできない。  無力だと思う。  そして次の日のことだった。  ゆうこねぇに、施設の二階の階段上から押されて、階段を転がり落ちたのは。

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