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 帰り道。吹いてくる風が少しだけ涼しくなったなと感じる。今年の夏は嫌な思い出が出来てしまってそれから嫌な事だらけだ。  舘脇さんという信用できそうな大人と出会えたのだけは良い事。直樹と図書館に通ってたまではいつもの夏休みのようだったのに。 「ねぇ、あおちゃん…おれは力になれないの?村田くんに…いじめられてる…とかじゃないの?あの人、力で…暴力で人にいうこと聞かせるから、学校でも評判悪かったじゃん…。心配だよ…」  直樹が言ってくるのも当然だとは思った。  言ってしまいたい、助けてほしいって気持ちはある。でもさ、直樹。  大切な親友に言って巻き込みたくない気持ちのが強いんだ。俺がこの場所で笑いながら生活出来てたのって、直樹のお陰じゃん。直樹はそんなにクラスで目立つとか、すごく明るいってタイプじゃないけど、ここに来た時からずっと隣にいてくれた。いつの間にか双子の兄よりも過ごした時間が長くて大切な存在になってたんだ。そんな直樹に心配…はもうかけてるけど、性的な事を相談してこれ以上心配させたくない。どうしたらいいだろう。 「ねぇ、あおちゃん。ゆうこねぇも、あんな人じゃなかったよね。おれたち年下に優しいお姉ちゃんだったのに、あおちゃんの事突き落とすなんて…三人の間で何があったの?」  どうしたら。なんて話せば…。 「ゆうこねぇは…分からない。俺にも本当に分からないけど、村田の事なら大丈夫だから。直樹にはそのままでいてほしいから…お願いだから…」 いっそのこと突きはなそうと思ったのに、強い事は言えなかった。  直樹を巻き込まないように遠ざけたいけど、結局こうやって頼ってる。強くなりたい。  明日、舘脇さんちに一人で行って相談してみようか…。まだ知り合ったばかりだけど、信用できる気がする。  双子の兄、翠がいたなら翠に相談出来るんだろうな…。  翠がいたなら村田はもしかしたら翠を狙ったかもしれない。それか、二人でたまに入れ替わってみて順番に村田の相手をしたり…。そんなことまで考えるのおかしいよな。 「あおちゃん?」 「ほんとに大丈夫だから!ほらっ、園まで走って帰ろう!」  無事な方の手で直樹の手首を掴んで走ろうと声をかけた。  大丈夫。まだ笑えてる。前みたいに笑えてるはず。

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