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 次の日。学校の帰り、真っ直ぐ舘脇さんの家に向かった。  いつもは直樹と一緒に帰るけれど、今日は直樹に声をかけられる前に、「さようなら」の声と同時くらいにスタートダッシュをかけた。近くの席の友達からはおかしく思われたかもしれない。学校の先生はあてにならない、というか、打ち明けてそういう目で見られるようになってしまうのが怖い。    舘脇さんなら、もう公園の時に嫌な姿を見られてるから、今の状況を相談するなら、やっぱり舘脇さん以外に考えられなかった。  涼しくなってきた風が、直樹がいないせいか更に涼しく感じるのはきっと気のせい。学校から舘脇さんちは、愛育園に帰る途中だ。なんて話を切りだそう。その前に舘脇さんがいるかどうかも分からない。あのお手伝いのおばさんだけだったら、湿布を貰って帰ろうかな。おばさん、昨日喜んでくれてたように見えたけど、本当に次の日も行って図々しい子だって思われないかな。  幸い、骨は無事みたいで、夜痛かったけど、おばさんのくれた痛み止めでぐっすり眠れることは出来た。ちょうど村田にも呼び出されなくて良かった。  愛育園、村田とゆうこねぇと顔合わせたくないから帰りたくないな。このままどっかに消えられればいいのに。  そうこう考えてるうちに舘脇さんちに着いてしまった。何度見ても大きな家。  なんて相談していいか思い付かないまま来ちゃったから、チャイムを鳴らす前に深呼吸をする。いるかどうか分からないけどね。1人で訪ねるのは緊張するよ。  チャイムを鳴らすとすぐにおばさんが出てきてくれた。 「あおいくんいらっしゃい。手首大丈夫だった?昨日より腫れてない?今日は1人?」 ニコニコと、待っていたように話しかけられた。 「えと、今日は1人です。昨日より多分腫れてないし、夜痛かったけど、貰った痛み止めのお薬で大丈夫でした」 「そう。大したことなくて良かったわ。今日はね、舘脇さん帰ってきてるわよ。本当なら私はここのお手伝いさんなんだから、旦那様って呼ぶべきだと思うんだけど、友達感覚で来てくださいって言われたから名字で呼んでるの。優しい方だから上がってくと喜んでくれるわ」  おばさんに言われるまま、手をひかれてお邪魔した。 「あの、お、僕、今日もお邪魔して、迷惑じゃないですか?」 「子どもが迷惑とか考えなくていいのよ。おばちゃんの子どもはもうとっくに大きくなって結婚して遠くにいるからなかなか会えないの。あおいくんが来てくれて嬉しいって本当なんですからね」 おばさんはフフフっと笑ってくれたから、なんか、安心できた。 「舘脇さん、あおいくん来てくれましたよ~」  あの日、手当てしてくれた部屋で、舘脇さんは何か飲みながら本を読んでいた。 「お邪魔しま、す」  「蒼くん、そんな緊張しないでくれよ。一緒におやつでも食べながら少し話そうか。彼女の作るおやつはどれも美味しいんだ」 「あっ、昨日クッキーおいしかったです」 「だろ。私はこう見えて甘いものも好きでね」  自分が座ってるのとは違うソファーを勧めてくれて、まだ緊張しながら座った。ここで話してしまおう。舘脇さんの顔を見たらそう思えた。

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