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 おばさんはお菓子と飲み物を持ってきてくれたら「ゆっくりしてってね~」と言い残して部屋から出ていった。  何から話そう。どこから話せば良いだろう。なにも話す順番を考えずに来てしまったことを後悔してた。なにか話振ってくれないかな。振ってくれた話に返事だけして早々に帰ろうか。相談したい気持ちまで吹き飛んでいく。どうしたらいいか分からず、おばさんの作ってくれたクッキーを食べては、手についたクッキーのかす?をちびちび取ってテーブルに置いたティッシュに載せていった。 「蒼くん。美味しいかい?」 「はい。とっても」 「なにか、話したいことがあって来たんじゃないのかい?」  あぁ、この人には見透かされてるのかなって思った。俺がわざわざあまり知りもしない大人の人の家に行くような子供じゃないって分かってるんだ。  そう考えると、なにか話があるから来たって考えるのが自然だもんな。 「実は………」  説明がうまくいかなかったけど、ゆっくり考えながら舘脇さんに聞いてもらった。  あの事件の後から、愛育園の上級生に体の関係を強要されてること。暴力、痛い思いをするのは嫌だから、それに従ってる自分自身のことが嫌いになりそうなこと。    その上級生のことを好きらしい、ゆうこねぇにフォークを突き刺されたり、階段から突き落とされたこと…。  別に自分が特別可哀想だとは思わなかったし、愛育園には酷い体験をして、やっとあそこに辿り着いた子供もいるんだろうから、俺はそんなに可哀想じゃない。  お母さんと翠が迎えに来ないのは何か理由があるんだろうしって、納得してたはずだったのに、舘脇さんに最近起きたこと、困ってることを、全部、全部打ち明けたら、自然と自分の頬を涙が伝っていることに気づいた。 「ごめんなさい、泣くつもりなんてないんです。困ってたから、大人の人に相談したくて…ごめんなさい、こんな涙は今ひっこめますから」  クッキーのくずを置いたティッシュを取って、ゴミが落ちないよう丸めてから涙をふいた。もう出てくるな。  こんなほとんど知らない子供が目の前で泣いたら困るに決まってる。俺はまだ大丈夫だから、涙なんてもん出てくるなよ。 「蒼くん。君のことだから、一人で、泣かないで我慢して、耐えてきたんだろう?我慢してたものがダムみたいに溜まって、溜まりすぎると決壊するんだ。泣きたい時は泣いていいし、困ってることがあったら私で良かったらどんどん話していいんだ。子供がそんなにいっぱいいっぱいになるまで一人で我慢するもんじゃないよ」  我慢しなくていい。俺の目を見て真っ直ぐ伝えてくれた舘脇さんは、本当にそう思って俺に伝えてくれてるんだと思った。  本当に心配してくれて、我慢しなくていい……そう思ったら、声と涙は益々出てきた。生まれたての赤ん坊のように声を出して泣いたんだ。  舘脇さんは、俺が座ってるソファーの横に立って、背中を撫でてくれた。  大人の人に温かさを感じたのは初めてだった。

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