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 ひとしきり泣いた後、舘脇さんは元の対面のソファーに戻って座った。ティッシュで涙を拭いてもらって、こんなに泣いたのいつぶりだろうって、ちょっと恥ずかしくなった。子供っぽかったかも。 「蒼くん、提案があるんだ。私の養子にならないか?愛育園の子だって、里親が来て引き取られていった子がいるだろう?」 「里親…いま、した」  悪い話じゃないと思った。絶対愛育園の園長よりも信用出来そうな大人だし、優しいおばさんもいる。お金持ちだから、今までの古着じゃない服も、もしかしたら着せてもらえるかもしれない。  でも、あそこから出てしまったら、お母さんと翠との繋がりがなくなってしまう。もし、迎えに来た時に俺がいなかったら…もう二度と会える可能性がなくなってしまうんしゃないか。なにより、愛育園には直樹がいる。ずっとそばにいてくれた直樹を置いてくのは嫌だ。答えは考えるまでもなかったんだ。 「それは、すごく嬉しい提案なんですけど、あそこで母と兄を待ってるし、直樹もいるので、ごめんなさい」 「そうか。謝ることはないよ。断られるだろうなと思いながらの提案だったから。あそこに来てから、君の母親が会いに来たことはあるのかい?」 「それは…ないです」 「ふむ。じゃぁもう一つの提案だ。君が今すぐあそこを出るのが無理なら、たくさん勉強して私が経営する高校の特待生として入学しておいで。学生寮があるから、特待生なら無量でそこに住めるんだ。この提案だと、今の状況が変わらないまま園で過ごす事になる。ツライ状況は変わらない。母親は中学卒業まで待てば十分だと思うんだ。蒼くんは、話した感じ頭が良さそうだ。それを目標にしてみてはどうだろう」  目標があれば、今の状況が耐えられるかもしれないと言ってるのかもしれない。 「ただし、今より状況が悪くなりそうなら私は迷わずに君を保護しにいく。そのために、週に一度はここに来て、無事かどうか確認させてくれないか?」 「なんで、そこまでしてくれるんですか?」 「乗り掛かった船って言うだろ。君を一度助けた時点で関わり、縁があるんだ。それに、子供が好きで教育者をしていた身としては見逃せなくてね。おかげで婚期は逃したけどね」  舘脇さんは苦笑いをしながら冷めてしまってるだろう飲み物を飲んだ。婚期?結婚のことかな。 「分かりました。特待生目指して勉強します。で、週1回、友達としてここに来ます。それでいいですか?」 「おっ、いいねぇ。若い友達が出来て私も若返るよ。彼女も喜ぶと思うしね」  入口の辺りを指さしながら、彼女も、と言うので見てみると、おばさんの影が見えた。俺たちの会話が気になって、少し前からそこに来ていて、影が見えてたらしい。その姿に楽しくなって、ここ最近表面でしか笑ってなかったけど、心から楽しく笑えた。

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