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「お前、何言っちゃってんの?俺があそこ出ただけで気持ちが切り替えられたとでも?トラウマがなくなるとでも?お気楽な頭してんなぁ、直樹は。羨ましいくらいだぜ。俺がずっとあそこでどんな扱い受けてたか知らないわけじゃないだろうに。それともなに?直樹はただただジョギングしてただけ?俺の事関係なくジョギングしてただけで、あそこで起きてた事を知らなかったとでも?」  直樹と同じ高校に入学出来て、寮の同じ部屋になったときは舞い上がってた。もう邪魔者はいない。これで直樹と2人穏やかに生活出来る。そう思ってたはずだった。  なのに、嬉しそうに話しかけてくれた直樹に俺が言ったのはさっきの言葉。大分長いことまともに人と話さなくなって勉強ばかりと向き合い、玩具にされてた夢ではうなされ、背中の傷が傷んでる気になって夜中何度も起きるようになり性格がねじ曲がってしまった俺が言ったのは直樹が傷がつくような言葉。それから傷つけるような行為。    直樹が離れたわけじゃなく、自分から直樹を遠ざけたはずだったのに。お気楽な直樹ってわけじゃなく、直樹はここにスポーツ推薦で入るために走ってた。  そのために俺は園での主食がパンの時は、こっそり直樹の部屋の机に置いといてた。俺は勉強を頑張って高校に行くから体力は必要ない。スポーツ推薦を目指してる直樹は少しでも食べた方がいい。勝手にそう思ってしていたことだった。その成果かは分からないけれど、直樹はちょうど良く平均身長になり、筋肉もほどよくついていった。大幅に平均身長を下回ってる俺とは大違い。  直樹はきっと、園を出てこの学校に来れば俺と友達としてやり直せるって思ってくれてた。何度も声をかけてくれてたから、そんな直樹なのは変わっていないようだった。そのチャンスのはずだったのに。俺の口は思ってもいない事を吐き出してしまった。  行為は一度だけして、俺が村田にされた事を分かってほしかった。そんなのただの俺のエゴで俺の弱さだ。抱かれるのに慣れた体だったんだから、直樹にもそれを求めれば良かったのかもしれない。  一度のつもりだった直樹とのその行為が一度ならず続いてるのは……俺より体がしっかり成長した直樹が、俺に抱かれながら「あおちゃんごめん、ごめん…」って謝り続けてくれることに興奮を覚えてしまったからだ。人を征服するってこんな感じなのかと思った。村田は俺を抱いてこんな気持ちだったんだろうか。  俺より大きな直樹が俺に抱かれて謝っている。時には泣いている。優しくしたい相手のはずなのに。直樹にとって今の俺はどう映っているんだろう。昔のあおちゃんには見えていないと思うのに、未だにあおちゃんと呼んでくれるのは何故。

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