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「……くん、蒼くん。大丈夫かい?授業終わってるよ」 ふと見上げると、心配そうな顔でこちらを見ているのは、クラスメイトの会沢詩音だった。 「あぁ、会沢くん。授業終わってたよね。ちょっとさっきの授業内容考えてたよ」 単なるクラスメイト、上辺で話すだけならどうとでもなる。上手くいかないのは自分の本心も知ってほしいと欲ばってしまう相手、直樹くらいだ。 「ふぅん。そういうことにしといてあげるよ。クラス1の秀才様が授業の内容考えて前見たまま惚けてるなんてあるのかな?」 どうにも鋭い会沢くんは、入学式初日に会沢と伊藤で並んでいたので、隣の俺が話しかけやすい場所にいたから話しかけてくれたクラスメイトだ。それからは席替えをしても、こうして休み時間に机の近くに来ては他愛もない話をする。俺がクラスで浮かないキッカケになった有り難い人物だ。 「そう、そういうことだよ。俺は特待で入学したからそれを維持しなきゃならないだけで、間違っても秀才様なんかじゃないよ。努力したってだけ」  「うむ。それもそういうことにしとこうか」 空いた前の席の椅子に腰かけながら会沢くんがそう言った。突っ込んで話したい話題でもないので、上辺だけの笑顔を貼り付けた。 「それはそうと、蒼くん。君とは家族の話をしたことがなかったと記憶してるんだが、高校生のお兄さんがいるのかい?」 家族の話。あまり話したくもない、話すこともない話だけれど、会沢くんは人に言いふらす為に根掘り葉掘りプライバシーを聞いてくるような奴ではない。 「兄がいるよ」 「やっぱりそうか!いやぁ先日蒼くんとそっくりの顔の人を見かけたんだよ。一瞬君だと思い話しかけようとしたんだが、身長が違うし、学校の制服がここではなく秀明高校の制服だったから違うなと。しかしあまりにもそっくりだから兄弟なら辻褄があうから、今日訊いてみようと思っていたんだよ」  俺とそっくり…高校生。そんなの、兄の翠しか思いつかない。翠…実は近くにいるんだろうか。 「うん、兄がいるよ。会沢くんはその人どこで見かけたの?」 身長の違いから、双子と言ったら驚かれるかもしれないから兄とだけ言った。間違いではない。双子の兄なんだから。 「駅前のデパートの中だよ。こんな整った顔のハーフが2人もいるとはなぁ。兄弟でしかないよな」 「ふふっ。整ってるかどうかはともかく。兄を見かけたようだね」  兄、翠の行動範囲が近いかもしれない。いつしか、遠くにいようと幸せならいいや、迎えに来ないのはきっと2人が幸せな証拠なんだと自分を納得させてた。近くにいるかもしれない…。それなら、戸籍を調べてみる機会かもしれない。近くでバッタリ鉢合わせになる前に調べておこう。

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