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 休みの日。市役所に出向いて戸籍謄本をとった。俺の背が小さいせいで不審がられたが、高校の生徒手帳を見せ高校生だと分かってもらえた。  身長は、高校に入ってから寮の食事と学食のおかげで伸びているのを感じる。こんな節々の痛みはつい最近のもの。多分成長痛ってやつだろう。  市役所裏にある公園のベンチに座って戸籍を見る。受け取ったその場で見るのがなんとなく怖くて、もらってすぐ折りたたんでここまで持ってきた。  ゆっくり深呼吸をして開く。    父親の欄は空欄。母は未婚のままで俺たち双子を産んだんだ。その後結婚している。俺を愛育園に預けた後だ。  この場合預けたって言葉よりも愛育園に捨てられたって表現のほうが合ってるのかもしれないなと最近思う。当時は預けただけのつもりでも、結局あんな長いこと迎えに来なかったんだから、捨てたんだろうな。もしくは結婚するのにさすがに子供2人連れては相手が拒んだか。どちらにしろ俺に会いにも来ない事実は変わらない。  母が結婚した相手は財前という名字だった。  当たり前だけど、兄の翠も財前という名字になり、財前翠。俺は伊藤蒼。伊藤から比べて財前て金持ちそう。たった一つ繋がってただろう名字も、既に別だったとはね…。  公園で遊んでる親子連れの声がする。「ママ、もっとブランコ押して!もっともっと!」楽しそうな子供の声と、がんばって押してあげてる若そうな母親。楽しそうだな〜。あんな経験してみたかった。あんな風に遊んだ記憶…翠との記憶は年々薄れてきているから直樹との記憶ばかり。直樹は、今頃部活だろうな。  で、戸籍の続き。翠の新しい父親の名前は、財前正昭か。何者だろう。この人の家を調べるにはどうしたらいいんだろう。高校生になったって、自分で出来る事は限られてる。この人の家が分かれば、母親と翠にも会えるだろう。今更……って無視されたらどうしよう。幸せな生活を送る中、今更こんな発達が遅れたような弟が姿を見せたって…。  知ってるわけないと思いつつも、さっきの市民課に戻って財前さんという人を知らないか訊いてみた。知らないと言われたらそこで手詰まり。母は結婚し、翠は新しく父親もいる生活を送ってきた。  この事実を知っただけでいいような気がした。    ところが、職員からの返事は… 「財前さん?財前正昭さんなら…ほら、次の選挙のポスターもある。この辺の有名人だよ。家はこの市役所の奥の高台の…大きな豪邸だよ」 個人のプライバシーはどうしたんだ。この辺りの有名人だから良いとでも思ったのか、職員は簡単に財前さんの家までも教えてくれた。  家。母親と翠も生活してるだろう家を一目見るくらいなら迷惑にはならないだろう。  時刻はまだ昼の12時前。今日くらい勉強せずに過ごすのも良いんじゃないか。

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