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 あの雨の日から続いた俺と光輝兄さんの関係。兄さんはお義父さんの事が怖いから、お義父さんが夜確実に遅くなる日を狙って、俺を自室に呼ぶようになった。  力では俺に勝つけれど、力で抑えつけて言う事をきかせるよりも、俺が懐いて自分から甘える方が好みらしく、強引に迫ってくることはなかった。 「お兄ちゃんがこうやっておうちにいて遊んでくれるの嬉しいけどね、翠、働いてるカッコいいお兄ちゃんも見たいなぁ」 チョロい変態クソ兄さんは、俺のこんな些細な一言で、すんなり父親の会社で働くことを決めた。父親に頼みこんだんだろうけど、その辺りのやり取りは俺は知らない。  自分で稼いで俺にプレゼントをする楽しみを覚えた兄さんは、案外真面目に働いていた。  最も、プレゼントはアダルトグッズや可愛い?コスプレ衣装なんかで、真面目な物ではなかったが、一応喜んでみせれば、兄さんはまた頑張って働くので、素直に「ありがとうお兄ちゃん」と言って受け取っていた。  あの日、光輝兄さんの部屋に入らなければ何か、今とは変わっていたのかなとたまに空を見上げながら考える。今日は土曜で学校が休み。目の前の机の上には開いてはいる問題集。光輝兄さんという協力者は出来たものの、兄さんはお義父さんを恐れているから、ハッキリとした逃亡は手伝ってはくれないんだろうなぁ。資金面の援助はしてくれそうだけど。  多分に状況が変わってないだろう世界線の自分を考えたりして、なんとなくやる気が出なくて、四角い窓からぼんやり外を見ながらそんな事を堂々巡りの自問自答を繰り返していたら、ふと、この家を気にしている男の子が目についた。   俺と同じ、目につく髪色。染めてるのか?今時は分からないからな。この屋敷が気になるようでチラチラ見てはいるものの訪ねてきた様子ではない。なにか懐かしい感じがして、双眼鏡を出して顔を見てみたら、その理由はすぐに分かった。     俺にそっくりだ。そっくりというか、今より少し幼い頃の俺の姿だ。考えられる可能性は、蒼?でも俺より小さく見える。双子の成長速度は同じじゃないのか?そう考えると違う他人の空似?  違うかもしれないけれど、今逃したらもう会えないかもしれない。そんな焦りが産まれ、勢いよく蒼のいる方へ、外へ駆け出した。  門を出て、先程蒼が見えた方へ走った。 「蒼?蒼なのか?」 走って良かった。蒼は、さっき見えた場所よりも屋敷から離れ、歩いていた。  俺の声で振り返った顔は、俺の弟の蒼で間違いないと思った。 「えっ………翠なのか?」    翠という名前が出た。蒼に違いない。彼に向かって笑いながら近づいていった。

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