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01. 狐獣人の赤ん坊になりました

見知らぬ毛も耳コスプレイケメンもとい、サラサラとした長い銀髪に先っぽがちょっと黒いふさふさした耳と尻尾を生やした涼しい顔立ちの 狐獣人の青年は俺のママさんでした。 なんかもうどこからつっこんでいいのやら…… あのクソ本、今度手にするようなことがあれば俺の知り合いの本の扱いが乱暴な奴にくれてやる。 そしたら、あっという間にページが破かれたり、食べかすがいっぱいついたり、折り曲げられたりして、終いには大掃除のとき埃だらけで部屋の隅っこで発見されて処分場行きとろくな本生おくらないからな。 「あら坊やお腹が空いたの?今、お乳をあげるからね~」 今日も輝かしいテノールボイスでおられますねママさん~……じゃなくって! 興奮して手足をバタバタさせていたからかママさんが服をはだけて俺を揺り篭から抱き寄せる。 見えるのは雪のようなすべすべの白い肌に小さく主張する薄桃色のふっくらした二つの突起、ただし男だから見事な絶壁である、しかし吸い付くとほんのり甘いお乳がでるんだこれが。 飲んでる最中はあの本への恨みつらみをひたすら脳内で大声でいって、猛烈な恥ずかしさを紛らわせてる。 最初のときは恥ずかしさのあまりにマジで死ねると思った。 俺が赤ん坊になって1週間、食事や下のお世話といろいろ問題はあるのだが、一番頭を悩ませている問題は─── 物語の内容知らないのに完成させろとかどんな無茶ぶりだよ(怒) 途中まで書かれてあるなら、俺はヒーローやヒロイン、悪役といった主要人物ではないはずだ。 モブかお助けキャラといったところではないかと思うのだが…… 元の世界に戻ったら、あの本燃やす(真顔) 「ふふ、今日もたくさん飲めましたね~、いい子、いい子」 ふぉ──。 ママさんは俺を撫でるのが好きらしく何かあるたびによく撫でてくれる。 ママさんの手は男の手とは思えないほど柔らかくしなやかなで、撫で方も割れ物を扱うかのように繊細で優しいため、すごく気持ちよいのだ。 ふみ──。 まあ、この一週間でわかったこともいろいろある。 一つは、俺は商家の次男として生まれたこと。 パパさんは隣国へ商品の買い付けに行っているらしくまだあったことはないが、しなやかな茶色の髪に深緑の瞳の逞しい抱かれたい男No.1の狼獣人だそうだ。(byママさん談) 兄はパパさん譲りの茶色の髪にママさん譲りの紫水晶の瞳をしているあどけない顔をした天使である。 そんな天使の兄だが顔を合わせるたびに「ぷにぷにだねー」と人の頬をつまむのはやめてほしい、切実に。 ちなみに兄は狼獣人。 俺は、銀髪に緑の瞳の狐獣人で顔は地味顔である。 ママさんによるとパパさんのお母さんに似たらしい。 どうせならイケメンにしてほしかったけどしょうがない。 もう一つは魔法が存在するということである。 ある昼下がり、いつものようにトテトテと俺のところに来た兄が「これあげるー」と何もない掌から水でできた蝶を生み出してみせたのだ。 魔法があることにも水の蝶を作りだした兄にもスゲー、やばいと大興奮した。 が次の瞬間、水の蝶は飛ばずにびしゃりと俺と兄の服を濡らした。 そのとき、ちょうど部屋に入ってきたママさんが笑顔のまま無言で俺たちを着替えさせてくれたのだけど、どう見ても大変ご立腹だったガクブル いやね、笑顔なんですよ、笑顔なんですけど放つオーラがどす黒いのですよ 俺たちを着替えさせた後、ママさんは兄を隣の部屋に連行していった。 すごい泣き声が聞こえてきたが……兄よ、南無。 ママさんを怒らせるのは絶対ダメとわかった瞬間だった。 「あら坊や震えているの?変ねえ、今日はぽかぽか暖かいのに寒いのかしら……。毛布とってくるから待っててねー」 まあ、とにかく本の物語云々はとりあえずおいといて、この世界のことを知ることからまずは始めようと思う。

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