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04.天使の兄は実は×××だった件

俺は体内に巡る魔力の流れをさかのぼり、原点へと向かっていった。 そして、硬い鉄のような壁にぶちあたった。 二ヶ月間、この壁に阻まれて何度泣き寝入りをしたことか…… だが、それも今日で終わりだ! 強行突破する点は変わらないが、その前にこれまでのことを思い返す…… 夏の暑い中、自転車で十数キロ先の古本屋まで行き手に入れた本に、途中までしか書かれてないから完成させろと無茶ぶりをふられ、わけのわからぬ間に、授乳や下の世話をされる恥ずかしさ百倍の赤ちゃんライフがスタートし、パパさんにはケバケバメガネや寒い服の餌食とされ ……ホント、俺、振り回されてばかりだよなニコッ 猛烈な勢いでこみあげてきた怒りを短剣のように鋭くし、全身全霊をこめて壁に突き刺す。 すると壁に亀裂が入り、蒼い光が湧き出した。 亀裂が壁全体に広がっていくにつれ、湧き出す光の量も増してくる。 そして壁は薄いガラスのように砕け散り、蒼い温かな光の海に呑み込まれた。 蒼い視界の中、奥の方に紅い塊をみつけた俺は近づこうとして───パンッという音とともに意識の表面へと押し流された。 目を開けると、複雑そうな顔をしたママさんが優しい繊細な手つきで頭を撫でてくれた。 「上出来よアイト、素晴らしいわ。 ただ何度もいうけどね、魔力は誰もがもっているものだけど、その流れをつかむことができるのはエルフや魔族とほんの一握りの特別なものたちだけなの。 魔法は魔力の流れをつかまなくても使うことができるから、大半の人は魔法の法則だけを重要視しているわ。 でもね、土を水に変えるような強大で奇跡のような魔法を使うには膨大な魔力と、魔力の流れをつかみコントロールする力、いわゆる魔力操作が必要なの。 魔力操作は難しいし危険だから、普通の子ども、ましてや赤ん坊ならなおのこと、会得できるものではないし、やめさせるわ。 けれど、あなたは生後六ヶ月にしてもう私たちの話すことをすべて理解しているし、私と何よりソウェルの血が流れている。 そんなあなたにやめさせることはできないわ。 ……血の宿命ね。」 ふにゃ───。えっ、最後なんて言ったの? 気持ちよくて聞いてなかった。 ママさんは名残惜しげに俺の頭から手を離すと部屋を出て行った。 ふー、今のでちょっと疲れがとれたけど、まだだるいなー ゴロリと寝ころがり、窓から薄桃色の空を見上げる。 吹き込んでくる風が汗をかいた体に心地よい。 にしても、パパさんだけでなくママさんや兄も薄々感づいていたとはな…… まあ、幼いのに無詠唱で水の蝶を生み出せる兄や、その親のパパさんとママさんが魔力操作に詳しくない方がおかしいか。 「アイト、いきてる-?」 「おあ───!!」 びびった、兄よ、いつから俺の部屋にいたのだ!? 足音とかドアの音とか全然しなかったぞ、ていうか人の頬をぷにぷにするのやめい!! 兄の手をペチペチと叩くと、兄は素直に手を引っ込めた。 あれ、珍しい、いつもはもっとしつこいのに……なんか嫌な予感がするのだが 兄はひょいと俺を抱き上げると、自分の膝の上に座らせ、後ろから抱きしめてきた。 「アイト、いいにおいがするー」 人のうなじのにおいをかぐなー!! 時折鼻や息がかすめるからくすぐったいし、何より俺、汗かいてるんだぞ、いいにおいのわけないだろ!! 抗議の声をあげようと後ろを振り向くと─── 唇に熱く柔らかいものがぴとっとすいつき、ついばむように優しく食んできた。 わあ、兄さん、まつげ以外と長いですねー、肌も雪のように白くて美しいですー…… じゃ、な───い!! 何してくれちゃってるんですか、この兄は!! 何で俺、生後六ヶ月にして実の兄にファーストキスを奪われなきゃいけないの!? しかも、すっごく上手なんですけど!! というか、いつまでキスしてるんだ、離・せ! 思いが通じたかはわからないが、ようやく兄が唇を離した。 「アイト、げんきになったー?」 げんき?あなたのおかげで発熱しそうなんですけどね、俺 「これね、げんきになるひみつのおまじないなんだよ! ぼくね、アイトがさいきんつかれてるようだからしんぱいだったんだよ そしたら、パパがね、とくべつにぼくにこのおまじないをおしえてくれたんだ! パパがママによくやるおまじないなんだって ぼく、パパがママにやるようにできてた?」 ……パパさん、あんたいつか絶対一発ぶん殴る ところで、兄よ、おまじないが終わったなら顔を離してくれませんか? 大きな紫水晶の瞳をウルウルさせて、頬が熟れたリンゴのようにまっ赤になってる兄のご尊顔を間近でみるのは刺激が強いというか…… 「ねえアイト、もっとおまじないしていい? なんかねほわほわしてふわふわするからもっとしてたいの……ダメ?」 雨の中、捨てられた子猫のような瞳と声で囁く兄に俺は白旗を振った。 とたんに、額に頬にうなじにとキスが雨のようにふってくる。 ……なあ、これ兄×弟もののBLファンタジー物語じゃないよね? 主人公さん、早く出てきて、つか出てこい。 俺の心の安寧の為に!! もうろうとしてきた意識の中で思うのは…… 兄よ、あなた天使じゃなくて小悪魔だったんですね

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