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08. 忘れていましたその存在
これはてめえの仕業か!かっちゃん!!
「姿を現せよ!!」
俺の吠え声は澄んだ青空にむなしく吸い込まれた。
───それは無理な相談だなあ。だって、僕まだお化粧直しすんでないんだも~ん。男だってお化粧は大事なんだからね!
ということで汝、シエロ坊のところへ戻るにゃ
化粧直しなんてしてる場合じゃないだろが!!
てか、とーちゃんのマネすんな!!
ぐにゃりと視界が揺れ、ビルの屋上から飛び降りたような衝撃が全身を駆け巡る。
ぐええ───、これはいつか倍返しにするからな、かっちゃん!!
強烈な痛さに意識が遠のいていく俺が最後に見た空はまるで泣いているようかのように青く揺らいでいた。
パチリ───目を開けると、見慣れた俺の部屋の天井が出迎えてくれた。
部屋の中は青白い夜明けの光で満たされていて、窓から入ってきたさわやかな風が心地よく汗をびっしょりかいた俺の体に吹きつける。
長い鮮烈な夢だったな───呆ける俺の頭に朝を告げる小鳥のさえずりがこだまする。
いろいろありすぎて、何か大事なことを忘れているような───本だとしたら、ある本のたどる結末だとしたら、君はどうする?───僕はラサ村の守護者のカルム。君、身ぐるみはがされているけど、やったのは盗賊かい?───そもそもにゃ、朕は汝にいくつかチートをすでに授けているのにゃぞ!───
意識がはっと覚醒した。そうだよ、チート!!
俺、何のチートがあるんだ?よし、念じてみるか!
『ステータス』
名前:アイト レベル:1
種族:狐獣人 クラス:誓約者
戦闘能力:1000
生産能力:1
異能:成長促進Ⅰ、身体強化Ⅲ、トーチライト
おおっ、戦闘能力高い!やっぱ、魔力の流れをつかんだからかな。
うん……まあ赤ん坊だしな、生産能力は目をつむる。
異能ってチートのことだよな、三つあるが……多いのか少ないのかはわからないな。
にしてもトーチライトってなんだ?
トーチライト……重要な選択をしなければいけないとき、にっちもさっちもいかなくなったとき、幸福と愛に包まれた未来へつながる道を切り拓くための力と知恵をかっちゃんから授けられる。代償として、使用する度にかっちゃんのお願いを一個叶える。───とーちゃんが君に与えたチートを改良してつくったものだよ!まさに君の茨の道の灯火となるチートだよね♡byかっちゃん
確かにすごいチートだけど……お願いって何?
絶対、ろくでもないこと要求されるだろこれ!
「アイトー!!」
うおゎ、考え事をしていた俺は目の前に迫っていた兄に気づかなかった。
そして、ただ今、ギューッと抱きしめられています。
あなたお日様のいい匂いがしますねー、兄さん。
じゃ、な───い!!
首をしめないで!力をもっと弱めて!骨が折れそうなんです、兄よ。
「アイト、ごめんね。ぼく、おまじないをやりすぎるとどくになるってしらなかったんだ。
ほんとうにごめんね、アイト」
大きな紫水晶の瞳をウルウルさせて、しっぽと三角のお耳が垂れ下がった兄は雨の日に捨てられた子猫そのものだ。
もちろん、シュンとした天使の兄をみた俺のハートはすでに打ち抜かれている。
ママさんが俺にやってくれるように兄の頭を優しく撫でて、怒ってないことを伝える。
兄はぱああっと天使のご尊顔を輝かせると、待っててとと言って部屋を飛び出していった。
そして数分後───今度は俺が泣きそうになった
主に、恥ずかしさで
すぐに兄はトマトとひき肉のパン粥を携えて戻ってきた。問題はその後───兄のアーン&褒め殺し攻撃が始まったのだ。
「わあ、えらいよー、アイト。さすがぼくのおとうと、たべるのもどうにはいってるねー。」
兄はぱたぱたしっぽをふって、スプーンをもってない方の手で俺を撫でる。
そして───
「はい、アーン」
兄は天使そのものの笑顔で俺の唇の先にスプーンを寄せる。
パン粥からは食欲を刺激する香りが確かにするのに、美少年のアーン&褒め殺し攻撃のせいで味がよくわからない。
兄よ、どうか俺に、自分の手で食べさせてください───(涙目)
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