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10. 賭けの結末
「ひゃうっ!くすぐったいからやめろよ!」
目の前にある秀麗な顔を押しのけようとするが俺の力は意に介さないらしく、なおも滑らかで温かい大きな舌で頬や鼻をペロペロと舐められる。
「やめろったら!」
「まいってるな、アイト」
パパさんがしてやったりという顔で笑みを浮かべている。
「こんなことされたら誰でもまいるよ」
俺は手の甲で頬を拭うと、陽の光を浴びて艶やかに輝く毛をすいた。
「最高だね、この子馬!!」
俺の言葉を理解しているのだろう───クリーム色の毛色をした子馬は嬉しそうにいなないて、先ほどよりも二割増しの勢いでペロペロと舐めてくる。
「明後日はアエルフス・デイだからな。少し早いが、俺とリオからの贈り物だ。」
そうか、とんと忘れてたけどそういえばそうだった───アエルフス・デイとは春の訪れを祝い皆が親切になる日だ。
「俺には全く懐かなかったのにな。お前のことはずいぶんとお気に召したようだ。」
パパさんは苦笑すると、何度か蹴られそうになりながらも鞍や鐙なんかを手際よく子馬に装着していく。
「名前は決まったか?」
「うん、決まったよ!」
俺は子馬の優しい夕陽色の瞳としっかり目線を合わせた。
「お前の名前はルーナだ。」
太陽の光を浴びて、優しく輝く月のような毛並みをしているからこの名前にしたが……
「イーヒヒーン」
子馬は大きくいななくと鼻面を俺の額に押しつけてきた。
どうやら、気に入ってくれたらしい。
「ルーナか、よい名前だな。って……うぉ、俺を蹴ろうとするな!そんなに俺が嫌いか!?」
名前呼んだだけだぞとパパさんは肩を落としたが、すぐに俺がニヤニヤみているのに気づいたのかコホンと咳払いして仕切り直してきた。
「まあ、とにかくだ。特訓はルーナに乗ってこの俺たちが暮らす王都アナハトルを一周することだ。といっても、まずは乗れるようになることからだが……その前に、ほらこのブラシでルーナをブラッシングしてやれ。終わりしだい、乗り方を教えてやる。」
パパさんから、一目で高級品だとわかるブラシを受け取る。
ルーナはキラキラと瞳を輝かせて俺を見つめていた。
よし、俺の腕前みせてやりますか!!
俺は本が大好きだが、それと同じくらい馬も大好きで大学では馬術部に入っていた。
そんな俺が自分の馬が手に入るかもしれないチャンスを逃すはずがない───いや、逃すわけにはいかない。
尻が痛くなること受け合いの特訓と聞いてすぐ乗馬の特訓のことだとわかったのは自分の経験からと、一年前のちょうどこの時期に兄が馬を贈られて───乗馬は初めてだというのに、その日の内に王都を一周させられて尻が痛いと涙目で俺に愚痴ってきたのを思い出したからである。
パパさんには悪いが、存分に驚いてもらうことにしよう。
ルーナに夢中でブラッシングしていた俺はニヤリとパパさんが悪い笑みを浮かべていたのに気がつかなかった。
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