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11. 駆けるよ馬はどこまでも

王都アナハトルは中央にあるプライドティグレ宮殿から同心円状に広がっている都である。 宮殿の正面にある蒼の広場からはすべての方角に放射状に街路が延びている。 広場周辺には蒼穹市場やマラ大聖堂があり…… パパさんが前を駆けながら王都の説明をしてくれるのだが、風の音で途切れ途切れにしか聞こえない。 というか、それどころじゃない。 パパさんを含め騎乗している人が全員、壊滅的なスピード狂だからだ!! 通行人が前を横切っても止まることは決してない!!! 実に不本意だが、今は俺も壊滅的なスピード狂と化し、止まることはない。 止まったら、確実に後続の人にひかれて死ぬからな(遠い目) 通行人も、当たり前のように猛スピードで突っ走る馬と馬の間を通り抜けていく。 というか、ちょっとあたっても気にしてない。 止まることは罪なのだ…… 兄の苦労が今、ようやくわかった。 「乗馬じゃなくて競馬だろ、これ!!」 パパさん、俺、初外出なんですよ!? しかも、この生じゃ乗馬も初めてなんですよ!? なのに、何でこの恐怖のレースをやらなければ為らないんでしょうか!? 今なら、日本の歩行者優先の素晴らしさがすごくわかる。 兄よ、俺が生きて帰ってこれたら、たっぷり愚痴を聞いておくれ…… せめてものすくいはちゃんと歩道と車道に道が整備されているところだろうか 後はまだ吐かずにすんでいられるところ 「どうだアイト、乗馬の特訓と合わせて王都の知識も学べる最高の王都観光だろ?」 「うん!恐怖と合わせて吐き気をもよおす最低の王都観光だね!」 「ははっ、わかってるじゃないか。 気をしっかり保てよ。後、半周だ。」 後、半周もあるんですか!? ……オーケー、後、半周しかないんだな!! 後、半周しか……(涙目) 俺、乗れない振りすればよかった。本当に。 でも、パパさん、鋭いから気づかれるか…… 俺がルーナに乗れることを、当然のことだと思っていたようだし 俺、二歳児なんだけどな(遠い目) パパさんの俺に対する評価ってどうなってるの、本当。 「ルーナ」 優しい夕陽色の瞳が青白い俺の顔を映した。 仏の笑みを口元に浮かべているが目は修羅と化した俺の顔を。 「ヒーン」 俺たちの間を何かが飛び交う。 熱く湧き上がるような、底冷えするような何かに俺は武者震いした。 ルーナのたてがみが強く風にたなびいた。 次の瞬間、グンと俺たちはスピードを増した。 通行人を左に右にと交わし、パパさんの馬のケツを追う。 パパさんは満足そうに頷くと、もうこちらを振り返ることも、しゃべりかけることもなく、風のように駆けていく。 明後日のアエルフス・デイの為か、家々に蒼い国旗が飾られていて、いたるところで勿忘草が売られているのがかすかに目につく。 明後日、絶対にゆっくり楽しむことを誓い俺はルーナと脱兎のごとく駆けぬけていった。

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