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12. サラッと言うなよ
家についた直後のことはよく覚えていない。
気づいたら、馬小屋の前で寝っ転がっていて、ルーナは水をがぶ飲みしていた。
とにかくケツが痛い。後、倦怠感がすさまじい。
指一本も動かせないわ、これ……
体中が熱く、滝のように汗を流す俺とは反対にパパさんとパパさんの馬はいたって涼しげだ。
なんなんだよ、あんたら……
「アイト、ルーナをいたわってやれよ。」
あんたは俺をいたわれ
鼻歌交じりに自分の馬の世話をしているパパさんに心の中で毒づく
よろよろと立ち上がり、這々の体でルーナの傍まで移動する。
「ありがとな」
「ヒーン」
首筋を撫でると、ルーナはペロペロとその滑らかで温かい舌で俺の額や頬を舐めた。
うん、ルーナ、サイコー。パパさん、サイテー。
「アイト、今晩はマルスと一緒に夕飯を食うんだから、それまでにはしゃきっとしてろよ」
はい……マルス?
サラッと言いましたけど初耳ですよ、パパさん。
「誰なの?」
「俺の弟で、ソウェル家の現当主だ。まあ堅苦しい奴だが、大の子ども好きでな、すぐ仲良くなれるから安心しろ」
「ちなみに参加しないという選択肢は?」
「ない。諦めるんだな。」
「ブルルッ!」
「おわ!ツバを飛ばすんじゃない、ルーナ!」
「ツバを飛ばしたらダメだよ、ルーナ」
いいぞ、ルーナ、もっとやってやれ!
軽くたしなめたが、心の中では拍手喝采だ。
「ヒヒーン」
ちゃんとルーナにはそれが伝わったようで、さっきより三割増しの勢いで顔中を舐められた。
「ずいぶんと仲良くなったようでなによりだよ、お二人さん。たが、そろそろ体を清めて準備しとかないとリオに叱られるぞ。」
「ルーナ、また後でね!」
俺はよろけながらも、パパさんの後を急いで追った。
俺はまだママさんに叱られたことはない。
しかし、兄が叱られる場面に何度も遭遇しているので、ママさんの恐さは十分すぎるほど知っている。
風呂に入り、汗や埃を洗い流すと、ようやく生き返った心地がした。
パパさんと一緒なのは嬉しくないオマケ……と言いたいが、パパさんの裸はすごかった。
念入りに鍛え上げられた筋肉という筋肉に、腹や背中に幾重にも走る痛々しい傷跡。
わけを聞いても、「その内知るときが来るさ」としか答えてくれなかった。
パパさんの過去も気になるが、ママさんに叱られないことが先決なのでひとまずこれは隅に置いとく。
部屋に急いで戻り、正装に着がえる。
強張った体を鞭打って動かしたため普段の倍は疲れた。
居間に行くと、テーブルの上にはご馳走が並べられていて、正装したママさんと兄が熱く魔法談議していた。
「お帰りなさい、アイト。どうだった?」
「お帰り、アイト。大丈夫?」
「ただいま、なんとか生きてる」
俺は返事もそこそこにどさっとソファーにもたれた。
「すっかり、お疲れのようね」
「あの洗礼を受けたら、誰でもぼろぞうきんのようになるよ」
兄は当時を思い出したらしく、ぶるりと身震いすると同情的な視線を俺に送った。
「本日の主役がそんなんじゃ困るな。
シャキッとしろよ。」
いつの間にか、俺の隣に立っていたパパさんにぺちりと膝を叩かれた。
もちろん、パパさんはきっちり正装していて、元気そのものである。
パパさん、あんた、忍者か。見ろ、本音を漏らした兄が、あんたに聞かれたかと思って慌ててるじゃないか……じゃない、俺が主役!?
俺、ほんのさっきまで何も聞いてなかったんですけど
どういうわけですかね、パパさん?
「おっ!マルスがついたようだな。カクト、アイト、お出迎えして差し上げろ」
俺の疑問は総無視ですか、そうですか
俺は兄に手をつながれて玄関まで件の主を出迎えに行った。
後、兄よ。手を繋がなくても歩けますよ、俺
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