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油断大敵な二人の関係

奥の個室に逃げ込むと、鍵を閉めてそのまま便器に座って心を落ち着かせた。 「クソッ、阿川の野郎…! あいつ、あんな事いきなり言いやがって! なんだっていうんだ…――!」  さっきのことを思い出すとムシャクシャした。ついでに腹もたった。そして、頭も心も乱れた。あいつが俺の事を熱い視線で見てくるたび、真っ直ぐに想いをぶつけてくるたび、俺の心はぐらついてくる。そして、脳裏にはあの言葉が甦る。 ゛みっともないですか…。すみませんね、みっともなくて。それでも俺は貴方が好きだから自分でもみっともなくもなりますよ…――! ゛ 不意にその言葉が頭の中に甦ると胸の奥がギュッとなってざわついた。ついでに頭の中が急に熱くなってしょうがなかった。 「……ったく、阿川の野郎……!」  あいつの顔を思い浮かべると呟いた。そして、頭を抱えるとそのまま黙りこんでうつむいた。  あいつが真っ直ぐな想いをぶつけてくるたび、俺の心は乱れる。冷たく跳ね退けても、あいつはめげずに追いかけてくる。まるで磁石見たいに、離れようとしない。そのたびに俺の心は、苦しくなってしょうがない――。 「…好きって、俺のどこがそんなに好きなんだ?」  俺は男だし、女見たいに可愛げもなければ何も無い。それなのにあいつは好きだと言ってくる。 それなのにあいつはどうして、俺なんかを…――。 胸のざわめきと共に気がついたらあいつのことを考えていた。我ながらに恥ずかしくなってきた。 恋愛に不器用な人間が真面目に恋愛に向き合おうとしている。しかも相手は男だ。自分でもどうかしてると思う。なのに俺は気がついたらあいつのことを不意に考えていた。 「……クソッ、頭がパンクしそうだ……!」  頭の中がどうにかなる前にあいつのことを考え無いように思考に蓋をした。そして深呼吸すると胸元に手を当ててぐらつく心をグッと押さえた。

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