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急接近。

俺の隣で阿川はすっかり寝ていた。肩に寄りかかって寝こけるなんて10年早いぞと思いながらも、隣で黙ってアイツの寝顔をみていた。 よく見たらまつ毛が長かった。普段は余り相手の顔なんかよく見てないのに。こんな時に、小さな事に気がつく。人間とは不思議な生き物だ――。 アイツの寝顔を見つめると急に胸の奥がぎゅっと切なくなった。この気持ちは何だろうか、自然に感情が揺れ動いた。そしてさっきの言葉が不意に脳裏に過った。 “貴方と帰って、帰り道に一緒にご飯を食べて、楽しかったな” アイツのありのままの言葉に自分の気持ちが一瞬かき乱されると顔が少し熱くなった。俺は近頃、変だ。ほんのすこしづつだけど、アイツに段々と惹かれはじめてるんじゃないかと――。 「くそ、むかつく。寝こけやがって……!」 不意にアイツの頬っぺたをつねると不機嫌な気分になってきた。 「人の気持ちも知らないで呑気に酔っ払ったまま寝やがって……! お前のせいだ、全部お前の!」 「ん~っ」 「お前がイチイチあんな事…――!」 「さん、……何でですかぁ~」 「あ?」 「俺も…おれも……電話…――」 「はっ?」  アイツは隣で寝言を呟いていた。うわごとで『電話』と。そこでキョトンするともう一度聞き返そうとした。すると、車はその場で停まった。運転手は後ろを振り向くと俺に話してきた。 「お客さん、着きましたよ! ここでいいですか?」 「ん、ああ! そこで大丈夫です…――! ほら、阿川起きろ! 着いたぞ!?」 「ん~? もう着きましたかぁ?」 「さっさと起きろ、置いて行くぞ!?」 「ふぁ~い」  阿川は酔っ払った様子で返事をすると目を覚ました。俺は呆れた表情でため息をつくとタクシー代を払ってアイツの体を支えながら路上を二人で歩いた。

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