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急接近。

「お前…!? やっぱ寝たフリしてやがったな!」 阿川は俺の上に覆い被さって来た。寝たフリしてた事に焦るとジタバタと暴れた。するとアイツは耳元で呟いた。 「ン……葛城さ…ん……」 「はっ…?」  アイツは俺の名前を呼ぶと、そのまま上に覆い被さって寝ていた。 「何だよコイツ…――」  一瞬、びくついたことにムカついた。アイツの重みを下で感じると、やたら相手の体温と耳元で聞こえる寝息に嫌でも意識した。 「人の上で呑気に生意気に寝てるんじゃねーよ、退けよ! 重いんだよ…──!」 「葛城さ…ん……」 「寝ながらひとの名前を呼ぶな! …ったく、これだから酔っぱらいは……!」 アイツの重みを下で感じながらヤレヤレと呆れた溜め息をついた。一瞬、ドキッとした自分がバカらしくなってきた。 「起きろよ…。重いんだよ、おい…――」  退かそうとしたけどなかなか退かないアイツに諦めて力尽きた。覆い被さって寝やがって、人を抱き枕みたいにして。不意にアイツの背中に両手を回すと無意識に名前を呼んだ。 「……阿川」  最近の俺はどうかしてる。ますます自分でも、訳がわからなくなっている。そのうち、コイツに心から惹かれてしまうような気がする。そしたら俺は…――。 「さん……俺も、俺も……携帯……」 「ん…?」  阿川はさっきも同じ事を車の中で寝言で呟いていた。今度は耳を傾けて尋ねた。 「おい、携帯が何だって?」 「さんの……携帯番号…俺も知りた…い…――」 「ッ……!?」    アイツは耳元で″俺の携帯番号を知りた″と呟いていた。一瞬「えっ」と思い。ベッドの脇に置いてあった携帯を手に取ると調べた。 ――ああ、そういえば俺の携帯にコイツの番号は無かったな。別に聞く必要無いと思って、コイツの携帯番号は登録して無かった。だから阿川も俺の番号なんか知らないはずだ。コイツ夢の中まで、俺を追っかけてるのか? 「まったくほんと呆れるな。今日はずっとお前のペースに乱されっぱなしだ。どうしてくれるんだよ、俺がさっき誘ってやったのにこのマヌケ。次は無いからな…――」  アイツの下で不意に呟くと、瞼を閉じて眠りについた。久しぶりに他人の体温を近くに感じながら眠りについた。  響子と別れてから恋愛なんて懲り懲りだと思い知ったのに、コイツのせいでそれすら忘れてた。もう彼女の事は俺の中では遠い昔の過去だった。今は別の誰かと同じベッドで眠りについている。恋とか愛とか、もう二度と無いと思っていたのに――。 「おやすみ、慶介……」  

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