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恋の行方。
萩原のドジョウすくいに戸田課長は上機嫌になると財布から一万円札を取り出して彼の胸ポケットに入れた。ついでに他の男性社員にも、チップを配っていた。戸田課長についてきた連中の思惑に「ははーん。なるほどな」と、呆れながら呟くとビールジョッキを片手に持って一口飲んだ。
「――で、柏木。なんで戸田課長が居るんだよ?」
「ああ、それなんだけどさ。今朝、萩原と飲みに行く話をエレベーターの中でしていたら偶然、戸田課長が居てさ。話を聞いてきたから俺と葛城と萩原と阿川で居酒屋に飲みに行きますって言ったら、「阿川も行くのか? よし、じゃあ私も誘え!」って言ってきてさ。ついでに戸田課長が他の社員達にも声をかけて大所帯の飲み会になったってわけさ」
「ふーん、そうか。まあ、阿川は戸田課長のお気に入りだし。お気入りの部下が同僚と飲みに行くって聞いたらついて来るだろうな。それに釣られてお小遣い目当てに来る連中も一緒にな」
「なんだよ葛城、不機嫌だな。怒ってるのか?」
「バーカ。怒ってるんじゃなく呆れてるんだ。」
「そうなのか?」
「ああ……!」
「阿川もアイツらと一緒に、戸田課長の前で胡麻すりすれば良いのに。アイツの間抜けな顔とか見たことないよな? 課長に一番気に入られてるのにさ。俺なんか戸田課長に見向きもされないぜ。お前と一緒だな」
「――じゃない」
「え?」
「アイツはそんなヤツじゃないって言ったんだ。胡麻すりもしなければ、自分から気に入られようともしない。アイツにとってアレが自然なんだ。ただ要領が良すぎて自分じゃ、気づかないんだ。そんなんで一々妬むなよ。阿川だって戸田課長に付き合わされて迷惑してるかも知れないだろ?」
不意にアイツの事を話すと、タバコの火を灰皿に押し付けて消した。柏木は隣で、口をポカーンとして俺の事を見ていた。
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