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恋の行方。

  ――そういえば、さっき変な夢を見たな。  夢の中でアイツにキスされた気がした。      それがやけにリアルに感じたな……。      唇に触れた感触が凄くリアルだった。  キスされる夢を見た俺は、よほど『重症』か? 響子の時でさえ、あんな夢なんか一度も見た事が無かったのに…――。   あんな風に優しくキスされたのは、あの時の屋上でのキス以来だな。あの時は初めてアイツのキスに感じた気がした。触れた唇から、胸がぎゅっと締めつけられるような切なさをアイツから…――。  屋上での思い出を不意に思い出した瞬間、顔が自然に赤くなってしまった。そして、胸の中が急にドキドキしてきた。 「……ッ、まったく俺とした事が何を思い出してるんだ。よりによってアイツとのキスなんか…――」  その瞬間、ハッと我に返った。 ……何かがおかしい。いや、俺の気のせいか?   夢の中でアイツにキスされた時の唇の感触が、少し違かったような。何だ、この妙な感覚は……。 「ッ…――!」 急に違和感を感じると、そこで待っていたコップが手から滑って落ちた。そして、うっかり毛布の上を濡らしてしまった。慌ててタオルで拭き取ると、自分のワイシャツが濡れた事に気がついた。 「まったく、何をやってるんだ自分は。このままだと風邪ひくな。早く新しい服に着替えないと、ん……?」  濡れたワイシャツを脱ごうとしてボタンに指をかけた時にふと気がついた。何故か胸元のボタンが開いていた。 「あれ……? 自分で外したのか? いや、そんなはずは――」  その瞬間、寝ていた時の記憶が急に甦った。    そういえば、あの時。柏木が俺の隣で介抱してたな。それで、俺が熱いとか言って胸元のボタンを外してたような。それで……。 「――ッ…!?」 突然、違和感の正体がわかった。抜け落ちていた記憶が急に甦っると、思わず言葉を失って呆然としたまま息を呑んだ。 「う、嘘だろ……?」  夢の中でアイツにキスされた時の妙な違和感がわかった。あの時、俺にキスしてきたのはアイツじゃなく『柏木』だった。  他に可能性なんて無かった。あの時、感じた唇の感触を思い出すと、顔色が青ざめた。それは、自分でも有り得ない事態だった。

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