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恋の行方。

 浴室の前で着ている服を脱ぐと、そのまま中に入ってシャワーを浴びた。頭を洗って体を洗うと湯船の中に浸かった。体が温まってくると、体を伸ばして疲れをとった。  アイツの能天気ぶりな姿を思い返して、疲れたため息をつくと、ふと居酒屋での出来事が頭の中で甦った。 ――教えて下さいよ。俺の事心配してくれたのは、俺が貴方の『後輩』ですから? それとも『俺』だからですか? 俺の気持がちわかるなら貴方の口から教えて下さい!  急にアイツの言葉を思い出した。  確かに阿川(アイツ)は俺の後輩だ。そして、初めの頃、アイツが入社して直ぐに俺が新入研修の教育係に選ばれた。 そこでアイツと初めて会って、俺が課長の頼みで阿川の教育係の担当に付いた。初めの頃は右も左もわからないアイツのケツを叩いて、色々と教えてやったっけな――。 たった僅かな期間だったけど、アイツを俺に文句を言ったり、反発するとか、途中で自分から仕事を投げ出さず、弱音も吐かずに、俺の後ろを必死について来て頑張って仕事に喰らいついてたな。 初めは途中で逃げ出すと思ってだけど、アイツは度胸と根性があった。そして新入社員の癖に妙に落ち着きがあって、俺の手を余り煩わせず。気転も利いてて、俺は傍らでアイツを見て感じたのは将来は大物になるような気がしていた。 ――そして、俺の予感は見事に当たった。今じゃ、うちの営業部署の大事な戦力になっていた。 あんな抜けたような性格なのに、頭の回転と機転の速さと、時に大胆な戦略方法で。俺や、うちの部署にいる社員達や、他の部署の社員達を圧倒的に押し退けて、上へ突き進むように階段を上って行く後ろ背中を見て、俺はアイツに対して強い『焦り』と『嫉妬』と『妬ましい気持ち』を抱いたのも事実だった。

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