7 / 14
健康と花
花がたくさん。
『ごはん食べようー。今日、13時。↓のカフェで。場所分かんなかったら電話して』
大学から歩いて10分くらいのところにあるお店のマップが添付されてた。
朝、環からメッセージが届いた。
12:45。俺はちゃんと、そこに行った。
花がたくさん。
店員さんが水を持ってきてくれた。
それから、メニュー。
おいしそうだな、はやく食べたい。
来るまでのあいだに、花を見た。
ガーベラがきれいだった。
「おまたせ」
環が来て、前に座った。
会うのは、1週間前の撮影の日以来だった。
「もう頼んだ?」
「んーん、頼んでない」
「そっか、なににする?」
「キッシュにする」
「俺もそうしよう」
環は店員さんに、ぱぱっと注文した。
「飲み物は、ホットコーヒーと、カフェオレで」
俺の好み、なんでもわかってるんだもんな。
なのに、肝心のことは伝わらない。
「いいね、ここのお店」
「いいよね。あ、zineいつ完成?」
「…さあ?多分まだかかると思う。来週くらいにはできるかな、志真ちゃん、全部ひとりでやるからなー」
「すごいよねほんと、センスも行動力も」
「だよね」
「秋生をモデルにしたのも、いいと思う」
「え、ん?そう?」
「うん、すごいね、秋生、撮影のとき知らない人みたいだった」
「えー、それっていいの?」
「ちゃんとオンになるってことじゃん。もうひとりのモデルの人も、かっこよかった」
「あー、かなちゃん?そうだね、かなちゃんはやばい」
「秋生、付き合ってんの?」
「え?」
「いいね、似合う」
「なんで付き合ってると思うの」
「え、付き合ってんじゃないの?」
かなちゃんと?
どうなんだろう、少なくとも今はつきあってない。
「どうかな、ふざけてるだけだよたぶん」
「そうなの?」
「んー、そうだよ。環は?今彼女は?」
「今?いないー」
「そうなんだ、なんか珍しいね」
「そう?別に珍しくないよ。あ、あのさ、モデルになってくれない?絵の」
そう言って、環の手が顔に伸びてきた。
ほっぺに触れる。
「好きだな、きれいだなって思ったんだ。前の撮影見せてもらって。秋生のこと小さい時からずっと知ってるのに、志真さんみたいに、秋生のきれいさに全然気付けなかった」
環の手は、少しカサついていた。
すきって、どういうすき?
離れていく手に触った。
爪のあいだに、絵の具がついている。
「…いいよ、モデルする」
環はありがとうって笑った。
運ばれたキッシュを食べた。
環と食べるのは、俺にとってすごく大切なことだった。しあわせだなと思った。
こころのどこかで、きっと環とはそういう意味で一緒にいることはできないんだって、
だから、一緒にに向かい合わせで食べる食事のことが、だいすきだった。
もぐもぐ、咀嚼して、どろどろ。
からだに吸いこまれていく、栄養。
動くくちびる、ナイフ、フォーク
おいしいねって言葉、気分
ぜんぶ嚥下した。
ともだちにシェアしよう!