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健康と花

花がたくさん。 『ごはん食べようー。今日、13時。↓のカフェで。場所分かんなかったら電話して』 大学から歩いて10分くらいのところにあるお店のマップが添付されてた。 朝、環からメッセージが届いた。 12:45。俺はちゃんと、そこに行った。 花がたくさん。 店員さんが水を持ってきてくれた。 それから、メニュー。 おいしそうだな、はやく食べたい。 来るまでのあいだに、花を見た。 ガーベラがきれいだった。 「おまたせ」 環が来て、前に座った。 会うのは、1週間前の撮影の日以来だった。 「もう頼んだ?」 「んーん、頼んでない」 「そっか、なににする?」 「キッシュにする」 「俺もそうしよう」 環は店員さんに、ぱぱっと注文した。 「飲み物は、ホットコーヒーと、カフェオレで」 俺の好み、なんでもわかってるんだもんな。 なのに、肝心のことは伝わらない。 「いいね、ここのお店」 「いいよね。あ、zineいつ完成?」 「…さあ?多分まだかかると思う。来週くらいにはできるかな、志真ちゃん、全部ひとりでやるからなー」 「すごいよねほんと、センスも行動力も」 「だよね」 「秋生をモデルにしたのも、いいと思う」 「え、ん?そう?」 「うん、すごいね、秋生、撮影のとき知らない人みたいだった」 「えー、それっていいの?」 「ちゃんとオンになるってことじゃん。もうひとりのモデルの人も、かっこよかった」 「あー、かなちゃん?そうだね、かなちゃんはやばい」 「秋生、付き合ってんの?」 「え?」 「いいね、似合う」 「なんで付き合ってると思うの」 「え、付き合ってんじゃないの?」 かなちゃんと? どうなんだろう、少なくとも今はつきあってない。 「どうかな、ふざけてるだけだよたぶん」 「そうなの?」 「んー、そうだよ。環は?今彼女は?」 「今?いないー」 「そうなんだ、なんか珍しいね」 「そう?別に珍しくないよ。あ、あのさ、モデルになってくれない?絵の」 そう言って、環の手が顔に伸びてきた。 ほっぺに触れる。 「好きだな、きれいだなって思ったんだ。前の撮影見せてもらって。秋生のこと小さい時からずっと知ってるのに、志真さんみたいに、秋生のきれいさに全然気付けなかった」 環の手は、少しカサついていた。 すきって、どういうすき? 離れていく手に触った。 爪のあいだに、絵の具がついている。 「…いいよ、モデルする」 環はありがとうって笑った。 運ばれたキッシュを食べた。 環と食べるのは、俺にとってすごく大切なことだった。しあわせだなと思った。 こころのどこかで、きっと環とはそういう意味で一緒にいることはできないんだって、 だから、一緒にに向かい合わせで食べる食事のことが、だいすきだった。 もぐもぐ、咀嚼して、どろどろ。 からだに吸いこまれていく、栄養。 動くくちびる、ナイフ、フォーク おいしいねって言葉、気分 ぜんぶ嚥下した。

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