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まどろみ

日曜日、部屋で寝ていた。 「あきおー!おーい!」 「なに?」 ふとんの中でまだうつらうつらしてるのに、環は揺さぶってくる。 「ほら、買ってもらった!」 「なにを?」 「画集!」 「がしゅう…」 「ゴッドワードの画集!」 当時、中1。 思えば、そんな歳のときから画集とか、しかもマイナーな画家の。 環は、中学生のときも今も、ほんのちょっと不思議だ。 環はベッドを背もたれに床に座って、画集を開く。 俺はふとんから出ないでうつ伏せに向き直して、頬杖ついて画集を覗き込む。 やわらかい日差し、やわらかい女のひとのからだ うっとりするような目、色彩 環のふわふわした髪、まつげ、鼻筋 窓から入ってくる光 この感情はなんだ、 プールに浮かんでるみたいな気分だな 画集に手を伸ばした。 「きれいだね」 「ほんと、この色味が大好き。きれい。ほんと、夢みたいで」 「女のひとも、きれい」 「そうだね。恋人だったらしい。ミューズだ」 「みゅーず」 「彼女がいたから、こんなふうに絵を描けたんじゃないかなって思うよ。俺もこんな絵、描きたい」 環が、服を着ないきれいな女の人を見ながら、デッサンしてるのを想像した。それは、環の恋人 きれいなからだを見つめて、手を真っ黒にしながら、カンバスにそのからだを写しとるのを。 それだけで、ぞくぞくした。 どういうぞくぞくなのかな。 とにかく枕に、顔をうずめた。 どうにかなってしまいそうだ。 「秋生、まだ眠いの?」 「んー、ねむいかもまだ」 「昼寝?」 「ひるね、環もする?」 環は画集を床に置いて、ふとんに潜り込んできた。 顔が近づく。 「俺も昼寝していい?」 「いいよ」 環は目を閉じた。 真綿でくるまれて、しめつけられていくみたい

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