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うたかたの言葉

「はー、お腹いっぱいになった!」 「おいしかったね、キッシュ」 「うん、ありがとう教えてくれて。こんなとこにこんな店があるなんて知らなかった」 「おもしろい店だよね、花屋さんの奥にカフェあるなんて」 環の好きなあの画家の絵には花もよく描かれていて、だから環は静物画を描くときも、花をよく描いてる気がする。 油画の実習室を覗くのはほんとたまーにだから、よく描いてるって勝手に思ってるだけかもしれないけど。 「この後は描きに戻るの?」 「んー、そうだな…秋生は?最近なに作ってんの?」 「シャツのデザインして縫ったよ。あとアクセサリーのデザインした。あ、次のzineで取り上げてくれるって、志真ちゃんが言ってた」 「へー!この後作業すんの?」 「どっちでもいいんだけど、どうしよっかな。別にそんな焦ってはないけど、シャツはもう何着か同じパターンで作っときたい気もするんだよね」 「見に行っていい?」 「え、そんなおもしろいことしないよ?布切ったりするだけで…」 見られながら作業とか、できるかな… 緊張してできなそう。 「邪魔しないからさ、見せて」 「んー、いいよ」 「ありがとう。俺初めてかも、服飾の校舎行くの」 「なんかドキドキしない?違うコースの教室行く時」 「分かる。なんでだろうね」 「俺も油画の教室行く時、周り知らない人ばっかだし、環もなんか知らない人みたいに見えて、いつも結構緊張してる」 「そうなの?緊張しなくていいのに!」 環の方を見たら、目が合った。 「なんか、へんな感じだね、こんなにずっと一緒にいるのに」 全然一緒じゃないじゃん、大学入ってから。 って、思った。 言いそうになった。 「そうだね、ずっと一緒なのにね」 嘘のことばはぷくぷく、空気に消えていった。

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