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縫製する

じょきじょきじょきって、布を裁った。 作ったパターンどおりに、パズルみたいに。 組み合わせて、まち針で留める。 環は側に座って、頬杖をつきながら見ている。 「秋生くんお疲れ」 「あ、お疲れ様」 同期の女の子が2人、作業室に入ってくる。 あんまり絡みのない2人だ。 「秋生くん、制作してるときのかっこ、かわいいよね」 「そう?」 「ちょんまげとメガネ」 前髪が邪魔だから、ゴムでくくってるだけだし、作業のときはメガネかけた方がはかどるから、そうしてるだけ。 「あと、あの、えーっと、秋生くんのお友達ですか?」 彼女は環にそう聞いた。 「そうです。ちょっと見学に」 「ヘー、そうなんだ。何専ですか?」 「油画です」 「おー、すごい」 2人は環のそばに座って、ずっとなんか話しかけてる。環は雑な受け答えをしている。 環はやっぱり、いつでもどこでも人を惹きつける。 俺は話し声をバックミュージックみたいにしながら手を動かす。 もう、なんだか少し慣れてしまったような、そんな感じだ。 環は女の子を惹きつける。そういう生き物だ。 まち針を刺し終えて、ミシンのところまで移動する。 セットして、髪をくくりなおして、メガネを上げて、それからペダルを踏んだ。 両手で布を軽く押さえながら、一気に縫う。 機械の大きな音が心地いい。 縫い終わりまできてミシンを止めたら、環がすぐそばにいるのが分かった。 それに伴って、2人もそばにいるのに気づいた。 「あー…見てて楽しい?普通に、見たいもの見終わったら、先帰っていいよ」 「いやいや、まだ見てたい」 「え、なんかある?そんな面白いことなくない?」 「秋生が作業してるとこ見てるから」 「んー…面白くないでしょ」 「楽しいよ。秋生はいくら見ても、見飽きないよ」 「…なんじゃそれ」 2人は笑って、仲良いね、って言った。それで、作業室から出て行った。 ふたりきりになった。 環はスケッチブックと鉛筆を取り出して、絵を描き出した。 俺も、作業に戻った。 「環、終わった」 スケッチブックには、俺がたくさん描いてあった。 「じゃあ、帰ろっか」 「…めっちゃ絵描いてある」 「うん。モデルになってもらうのに、練習。やっぱり、秋生はきれいだね」 「ちょんまげでメガネだけどね」 「それもまたいい」 髪をほどいて、メガネを外した。 「いつもの秋生もかわいい」 環の手が、俺の髪をくしゅくしゅ撫でた。

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