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第6話

 彼が何を思ってこんなことをするのか、和仁にはわからない。だが和仁は彼の事が嫌いで苦手だった。  この居酒屋どころか、和仁の生きる世界で彼が異質であるのは当たり前のことだ。本来ならば和仁など声をかけられるどころか姿を見ることすら叶わないだろう、彼は国の頂点である大公の側近くに侍るアルファなのだから。  大公を除いて、国で一二を争う名家・冷泉家の御曹司。ありあまる権力と金、そしてそれを維持するどころか発展させることのできる能力を持ったアルファが、冷泉 国光という男だった。  そんな男が地を這いずりまわるような苦界で生きる和仁にこうして付きまとうことが異常で、そして居心地が悪い。  突き刺さるような視線に気づかないフリをして、和仁は時間まで忙しなく動き回った。この居酒屋はとにかく時給が良いのだ。知り合いが来たからといって勤務態度を変えクビになるような事態は避けたい。だというのに、そんな和仁の考えなど構いもしない国光はやはり裏口で待っており、出てきた和仁の腕を掴んで有無を言わさず車に押し込んだ。そして毎度のように文句を言おうとする和仁が口を開く前に冷たい視線を向けてくる。 「本当は様子を見る程度に収めようかと思ったが、あのように酔っ払いが多い店で働くことは容認できない。この店でのアルバイトは辞めなさい」  そんなことを、平然と言ってくる。まるで辞めることが当たり前であるかのように、表情ひとつ動かない。 「なんであんたに容認してもらわないといけないの? そんな権利あんたに無いに決まってるだろ。あんたが冷泉家の次期当主だろうが、アルファだろうが、そんなもの関係ない。もう関わらないでくれ」  冷たく突き放すような言い方をするが、国光がこんなことを言うのは何も今回が初めてではない。和仁が掛け持ちするアルバイトをどこかで把握してはこうして辞めろと言ってくるのだ。やれオメガが働くには不向きな場所だの、やれ危ないだの。ならばどこであれば国光は納得するのかと無駄に考えたこともあったが、結局そんな場所はないのだという結論に至る。

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