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第7話
国光は和仁を働かせたくないのだ。アルバイトひとつでも、あるいは正社員として働いていたとしても、彼は気に入らないのだろう。住む場所も生活に必要な金銭もすべて面倒をみると国光は何度も言うが、その度に和仁はふざけるなと突っぱねた。
「毎回毎回こうしている時間もあんたには惜しいはずだ。俺はこんなこと望んでないし、はっきり言って迷惑だ。あんたが何を思ってこんなことしてるか知らないけど、こんなことしたって何の利益にもならないんだからやめたら? どれだけ続けたって、迷惑だと言うことはあっても感謝なんか間違ってもしないよ?」
取り繕うことも遠回しに仄めかすこともせず言いたい放題の和仁に車を運転している国光の部下の眉間に皺が寄る。だが和仁は嫌ってくれたら万々歳だというように、何一つ後悔することも改めることもしない。
あまりアルファに近づいてほしくないのだ。特に国光はかつて〝いずれ番になる者〟と言った過去がある。その時側にいた、幼子だった妹が美しいオメガに育った今は尚更に近づいてほしくない。
だが国光はあまり気にした風もなかった。
「和仁、私は利益の話をしているのではない。感謝をしろと言った覚えもない。そのような話ではなく、あのようにベタベタと他人が触ってくるような所で働くのは駄目だと言っている。それに、随分と顔色が悪い。また仕事を増やして無理をしているのでは?」
そっと手を伸ばして隈が消えない目尻を撫でる国光に、突然のことで茫然としていた和仁はハッとし慌ててその手を払い落とした。パシッと乾いた音が社内に響く。だがそんなことをしても国光の無表情はピクリとも動くことは無く、ただただ何を考えているかわからない、冷たさだけを感じる瞳が和仁を映していた。
「触るな。俺が何をしようと、どう生きようと、あんたには関係ない話だ」
近づくな。関わるな。そう全身で訴える和仁に国光は小さく息をつく。その時、アパートの前に車が静かに停車した。ロックが解除された音を聞いてすぐに和仁はドアを開く。しかし降りようとした和仁の腕を国光が強く掴んで引き留めた。
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