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第11話
どうして父はいなくなったのか、生きているのか死んでいるのか、どうして冷泉家の離れに住むことになったのか、当時は何もわからなかった和仁であったが、ひとつ、ひとつ歳をとる度に嫌でも真実を知る事となった。母は良くも悪くも正直な性格で、和仁に隠し事をするどころか息子は自分の味方をしてくれると信じてベラベラと何時間も家のことや父のことを話したし、冷泉家に仕えている使用人たちの声も聞くことは容易かった。否、もしかしたらわざと聞かせていたのかもしれない。明子と母が友人で、好意で住まわせてくれているのだと和仁は思っていたが、真実はそんな優しく美しいものではなかったのだから。
父は中小企業を経営している社長の長男で、母は一代で会社を大きくした会長の孫だった。父はアルファで、母はオメガ。どちらも裕福な環境で育ち、そして運命の番で深く深く愛し合ったと言う。しかし父の両親や親族はいくら運命といえど母と結婚することに大反対だった。当時父には良家のご令嬢であるオメガの婚約者がおり、しかも何年も前とはいえその婚約は父が婚約者に一目惚れをして家の格が違うのを父の両親が頭を下げて頭を下げてなんとか承諾してもらったものであったらしい。そんな大切なことも忘れて運命という言葉にひどくロマンを感じていた父は母を求め、母もすべてを知っていながら父の手を取った。
親戚一同には内緒で両親は海外で挙式を上げ結婚し、父は新たにマンションを契約して母に与えた。そして表向き独身を装った父は母の元に通っては実家に帰り、婚約も破棄していなかったというのだから、これを知った時の和仁の衝撃は計り知れないものだった。何より、それを話した母からも罪悪感というものは感じられず、この時から和仁の中で両親に対する不信感がつのっていった。
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