父は実家の会社を継ぐために仕事をし、終わればマンションに帰って母や和仁と一時を過ごし、時には友人と気兼ねなく飲むと言ってマンションに泊まり、そして何食わぬ顔で〝独身の男〟に戻り日常を過ごしていた。父はそれで幸せだったし、母も番に愛され何不自由なく優雅な生活ができるならそれで満足だったと言う。だがそんな生活がいつまでも続くはずはない。嘘はいつか暴かれるものだ。 　父の行動がどうにも怪しいと感じた父の両親は密かに人を雇って調べ、そしてすでに父が母と番関係を結んでいることも、母との間にオメガの息子が産まれていることも知ってしまった。そして最悪なことにその事実は父の婚約者にも知られてしまい、父が母と番関係を結んだにも関わらず偽りに偽りを重ねて婚約を続けていたことにショックを受けた婚約者は失神し寝込んでしまったという。 　婚約者の家には当然莫大な慰謝料を払わねばならず、いかに中小企業の社長といえど金策に苦労した父の両親は息子の身勝手さに怒り狂い、そして会社は次男に継がせると宣言して父を勘当したのだ。だが障害が出れば出るほど運命の熱に浮かされた両親は一から会社を立ち上げることにした。父はアルファであるから、今までの経験も踏まえれば容易く大手の企業ほどには稼ぐことができるだろうと過信して。 　だが、世の中はそんなに甘くない。父が起こした事業は軌道に乗ることができず負債ばかりが増えて、その度に父は借金を繰り返したが当然返す術もなく、実情を知ってはいても理解はしていなかった母は裕福な生活を改める気などなく浪費を繰り返した。そんな状態でなぜ母の両親に助けを求めないのかと和仁は思ったが、その頃には既に会社を大きくした会長は儚くなり、跡を継いだ社長である母の父親は才能なく借金を重ねるだけ重ねて会社を畳み失踪していた。 　頼れる人など一人もおらず、かといって事業を成功させるだけの器も、質素倹約して生きるという考えも持たない。結局父は親の事業を引き継ぐことでしか働いて金を稼ぐということができない人で、母は番を得ようと子供を産もうと金が無くなろうと〝裕福な家のお嬢さん〟でいることしかできない人だった。 　あれほど愛し合っていたのに、あれほど未来を信じていたというのに、金が減れば減るほど喧嘩が絶えなくなり、そしてすべてに耐えることのできなくなった父は母も子供もすべてを捨てて姿を消した。借金だけを残して。