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第13話
番でいることが露見したら逃げよう。そう約束していた両親はもしものことを考えてマンションを購入ではなく借りており、その家賃を随分と前から滞納していた為、父が失踪してすぐに立ち退き命令が下された。このままでは生きていくことなどできないと母が縋ったのは高校時代よく時間を共にしたという明子だった。今にして思えば、母は明子が名門冷泉家に嫁いだことも、産まれた息子がアルファであることもすべてわかっていて彼女に話をしたのだろう。父は和仁も媛香もオメガであったことをひどく嘆き、時にそれを理由に母を責めていたりもしたものだが、母は冷泉家をいずれ継ぐことになる明子の息子――国光と媛香が番になれば自分の一生は安泰だと考えていた。何より母は明子のことを学友と言ったが、本当は当時裕福で高飛車だった母が学校内で幅を利かせており大人しく控えめな明子を勝手に格下認定しては何かとこき使って。そしてそんな学生時代の勝手に作った上下関係を大人になった今でも母は持ち出し、半ば強引に冷泉家の離れを使えるよう説得したようだった。
明子は和仁からみても大人しく気弱で、母に対してビクビクしている人だった。夫である冷泉家の当主に離れを使うことは伝えていたようだが、当主が母の実家の傍若無人さを嫌っているため誰が使うかは隠したままだったそうだ。夫を怒らせたくないが母と対立する勇気もない明子がとった苦肉の策。だというのに明子の心労の種である母は何とも思っていないのか、まるで面白い世間話をするかのように和仁に隠すことなく平然と自ら話した。その頃には和仁も明子の慈悲で公立ではあったが学校に通うようになっており、少しずつではあるものの世間の常識などを身に着けていたので母の話が笑える話でも何でもない恥知らずなものだと理解していた。
日に日に、和仁の中で両親に対する嫌悪が広がっていく。そんな和仁の姿を、何故か離れに頻繁に顔を見せる国光がジッと見つめていた。
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