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第14話
国光は和仁よりも少し年上で、無口無表情の冷たい印象しかない少年だった。お金持ちのアルファが通う名門校に在籍しているらしく成績優秀で運動もできる、非の打ち所がない少年。流石は冷泉家の次期当主と誰もが国光を褒め称えた。彼はアルファであるから、オメガである媛香が初対面で泣きじゃくったのも力のない子供のオメガなら誰もが見せる行動なのだと学校に通うようになった和仁は理解するようになったが、それでも初対面の印象はなかなか変えることができず、和仁は国光が苦手で恐ろしかった。そして何より、母の行動を知れば知るほど国光や明子に申し訳なさがつのり、国光の冷たい瞳で見つめられるとすべてを責め立てられているように感じていたたまれなさを覚えた。
母はこの期に及んでも変わることは無く、和仁が何を言おうと子供の戯言と受け流して働こうともしなかった。生きているだけでどうしたって金はかかるし、いくら公立といえど学校に行くにも何かと金が必要だ。そのすべてを明子が負担してくれ、名門の冷泉家からしたら微々たるものであったかもしれないが和仁は喚き散らしたいほどの羞恥と怒りを何度も押し殺してきた。
中学を卒業するまでは働くことができないが、逆に言えば義務教育を終えたなら働くことができる。だから中学を卒業したらすぐに働いて母と妹を連れて冷泉家を出て、そして明子に頭を下げて給料から今まで和仁たちにかかった金を少しずつ返して行こう。贅沢思考の母は納得などしないだろうが、これ以上厚顔であることはできない。喚かれようと何をされようと連れ出す。そう和仁は心に強く誓っていたのだが、和仁が中学を卒業する直前に母は離れで急死した。くも膜下出血だったと医師が言っていたのを覚えている。
母に縋り泣きじゃくる妹を見つめながらも、和仁は泣くことができなかった。愛された記憶も、大切にされた記憶も確かにあって、そんな母がいなくなるとやはり寂しく悲しい気持ちも浮かぶのだが、それを上回るほどの安堵が押し寄せてきた。やっと終わったと、そう強く思ってしまった己はどれほど薄情なのかと、両親を散々人でなしだと思ってきたが、それ以上に自分は人でなしだったのかと自己嫌悪に陥った。
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