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第17話

「おにいちゃん? どうしたのお兄ちゃん!?」  腕を引っ張られるがまま走る媛香が困惑した声をあげるが、それに答える余裕はなかった。  早く、早くここから離れなければならない。国光は媛香を番にしようとしている。あの冷たい目をした男に媛香を渡すことなどできないし、これ以上ここに居れば明子の怒りに触れて媛香が苦しむことになる。  きっと明子は、和仁たちのことを疫病神だと思っていることだろう。それは間違いではない。けれど、和仁は兄だ。親を失い残された妹の――媛香の幸福を願い、未来を守ってやらなければならない。  それからアパートに移った和仁はアルバイトを幾つも幾つも掛け持ちをして休む間もなく働いた。媛香にひもじい思いをさせないようにしながらも切り詰められるところはとことんまで切り詰めて、媛香の学費を貯めながら、明子に今までのお金と肩代わりしてもらった借金を返済していった。はやく金を返して冷泉家との関りを断とう。そうしなければ媛香の未来がどうなるかわからない。そう思って我武者羅に足掻いたというのに、国光は何故か度々和仁の前に姿を現わしては、やれ金の心配はいらないからもっとセキュリティの確かな場所に住めだの、やれこのアルバイトは駄目だのと苦言を呈してきた。  最初は国光にも遠慮と負い目があった和仁であったが、このままではいけないと思いわざと口を悪くし、迷惑だ必要ないと国光のすべてを突っぱね、拒絶してきた。そうすれば和仁に幻滅し、こんな兄がくっついてくるならご免だと媛香を諦めてくれるのではないかと信じていた。だが、現状は何も変わらないまま。  それでも、あと少しの辛抱だと和仁は己に言い聞かせ続ける。  あともう少しで、すべてが終わるから。

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