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第25話
四月、新学期と同時に、櫂斗の新しい仕事はスタートした。と言っても、準備等で学校には通勤していたけれど、授業が本格スタートするので、櫂斗は気合いを入れてネクタイを締める。
「じゃあ亮介、行ってくるなー?」
亮介へ声をかけると、キッチンで食器を食洗機に入れていた彼が、おー、と返事をくれる。櫂斗が食事を作るので、新調したのだ。
「お前、すぐ牛丼屋行くんだから……今日はちゃんとしたの、食えよ?」
「分かってるって」
櫂斗はそこまで言って、何だかカップルみたいな会話だな、と思い、カップルか、と自分で突っ込んで顔が熱くなる。
「あ、櫂斗」
亮介が何かを思い出したように櫂斗を呼んだ。何だ、忘れ物か? と彼を見ると、亮介はニヤリと笑った。
「痴漢されんなよ? お前、すぐ人を誘うんだから」
「しねーよ!」
先程の櫂斗の意趣返しと分かっていても、ムカついて反論し、じゃーな! とドアを勢いよく閉める。
外は気持ちいい程の晴天で、櫂斗は思わず供用廊下から景色を眺めた。ゆっくり動いていく時間を、今度亮介と満喫したいな、と思って再び歩き出す。
亮介と両想いになってから、痴漢されたいという欲求は無くなった。我ながら単純だな、と思うけれど、その方が精神衛生的に良いのでよしとしよう。ただ、別の弊害はあるけれど。
事ある毎に、ここで亮介とプレイしたらどうなるんだろう、という妄想が出てくるのだ。それを亮介に言ったら、今度やってみるか、とケロッと返されたけれど。
(いかんいかん、また妄想が始まる所だった)
櫂斗は頭を振って妄想をかき消す。
そしてそう言えば、と櫂斗はスマホを取り出した。私立高校の教師になった事を、母親にメッセージで伝えていて、その返信が来ていたのを確認していなかったのだ。エレベーターに乗り込み、その間に見ると、「あらそう、公立じゃないのね」とだけ送られてきていた。
以前の櫂斗ならそこで申し訳なく思うのだが、櫂斗は、この返答で切るべき人間関係はハッキリしたな、と画面をオフにする。
するとすぐに、スマホが震えた。見ると、波多野からメッセージが来ている。
ロビーで立ち止まって確認したら、採用おめでとうというメッセージと、二人でウエディングドレスを着た、波多野の写真が表示された。紙上の契約に興味は無いと言いながら、彼女にせがまれフォトウェディングを挙げたそうだ。仕方なくと書いてありながらも、その顔は穏やかに笑っているのを見て、櫂斗まで嬉しくなった。
「……よし、オレも頑張るぞー」
小声で気合いを入れ、スマホをポケットにしまう。
春の陽気の中、櫂斗は外へと歩き出した。
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番外編へと続きます。
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