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第37話 全力で愛してくれ8

「亮介……」 櫂斗はソファーで項垂れている亮介に声を掛ける。亮介は無反応だ。 「亮介、ごめん……オレがズルズル返事を先延ばしにしたばっかりに、嫌な思いさせた」 「櫂斗……」 弱々しい亮介の声がする。その声が、櫂斗が大怪我をして亮介が見舞いに来た時の声と重なって、櫂斗はギュッと胸が締め付けられた。 こっちにきて、と言われ、コップをテーブルに置いて隣に座ると、抱きしめられる。 「俺、結構頑張って仕事早く終わらせてきたんだけど……」 「だから、ごめんって……」 言いながら、何だか安心して涙が出てきた。鼻をすすると、亮介の腕に力が込められた。その温かさに、さらに涙が出てくる。 「いや、俺こそごめん……櫂斗がゲイだって言い出せないのは、分かってたつもりだったんだけどな」 何でもオープンに話せてしまう亮介にとって、櫂斗はもどかしいのだろうと思う。でも、櫂斗の環境を思えば仕方のない事だ、亮介もそう以前に言っていた。 「やっと仕事と小井出から解放されて、櫂斗に癒してもらおうと思ったら駅でガキに抱きしめられてるし」 ショックだったし、今までに無いくらいムカついた、と亮介は小さく呟く。 「それが嫉妬だと気付いたら、やるせなくなってヤケ酒だ」 かっこ悪いだろ、と彼は笑う。櫂斗は首を振った。 「オレも、小井出さんに嫉妬してた。毎回邪魔されるし、甘えた声で亮介を呼んでたし」 「言っておくけど、俺は小井出に櫂斗の存在を話してあるからな? からかうの楽しいとか言って……」 オマケにこれで櫂斗との仲が悪くなったら、僕が責任取って付き合ってあげるよ、と言われたらしい。やっぱり狙われていたんじゃないか、と櫂斗は口を尖らせた。 「アイツはネコだけど、ドSだからな。多分ヤれない」 俺は屈服させられるのはゴメンだ、と亮介は苦笑する。 「でもすげぇよ、二十歳なのに学生服着ても違和感無いし、踊りも演技も上手い」 「……ふーん」 櫂斗はわざと気の無い返事をした。亮介はクスクス笑って、櫂斗の後頭部を撫でる。どうやら、機嫌は直ったらしい。 亮介はやっと少し離れて、顔を見せてくれた。どうやら酔いは少し覚めているらしく、その少し赤らんだ顔が近付いた。 「ん……」 唇に知った感触が来る。それは軽くついばんでは離れ、また違う角度から来ては離れる。 そのまま押し倒されそうになり、櫂斗は慌てた。 「ちょっと、ここ人んち……」 「お前が静かにしてればバレない」 「いや、ダメだろさすがに……っ」 「ここはホテルじゃないんで、ヤるならよそへ行ってくれないか」 不意に肇の声がして、櫂斗は固まった。亮介は舌打ちして、いいところだったのに、と呟いている。体勢を整えると、肇の後ろには湊もいて、目が合ってクスッと笑われた。カッと顔が熱くなって視線を逸らすと、亮介においこの浮気者、と顔を亮介に向けさせられる。 「人の彼氏に見蕩れてんじゃねぇ」 「や、だってあんなイケメンだとは思わなくて……」 何故か知らないけれど、湊は確かに人目を惹く容姿ではある。けれど、それ以上に彼の視線が気になってしまい、目が合うと緊張してしまうのだ。 「ホント、お前はドMだよな」 「えっ? は?」 それが何の関係がある、と櫂斗は他の三人を見渡す。何故か肇だけ視線を逸らされ、訳が分からないと思っていると、湊の視線が好きなんだろと言われ、頬が熱くなった。 「い、いや、そんな事ないし……」 何でそんな事をみんなの前で言うんだ、と照れていると、直感で湊の職業当ててんじゃねぇのか、と亮介と湊は笑う。 「な、何だよ皆して……っ、そりゃ湊さんの目は何か違うって言うか、気になるけどっ」 「櫂斗、湊はお前の嫌いな国家公務員だぞ」 痴漢好きには天敵だろ? と亮介がニヤニヤした。櫂斗は言葉の意味を理解すると、慌てて亮介の後ろに隠れる。 「お、お、オレっ、捕まるような事してないからっ」 櫂斗の反応に、亮介は声を上げて笑った。逮捕して尋問プレイ、今度やるか、と二人の前で笑いながら言っている。 「仲直りしたなら早く帰れ。あと櫂斗」 「な、何っ?」 こんな時でも冷静な肇は、櫂斗を呼ぶと微笑んだ。それがあまりにも可愛かったので、つい息を詰めてしまう。 (このカップル美男美女だな……) 「オレは櫂斗の味方だ、もちろん湊も。今度、お前が酔わない状態で飯食いに行こう」 それで櫂斗の話、いっぱい聞かせてくれ、と肇は言う。 何故そんな事を言うのだろうと思った。自分が酔わない状態でと言うのは、何となく分かるけれど。 「良かったな櫂斗、友達増えたぞ」 ハッとして櫂斗は亮介を見た。彼は微笑んで頭を撫でてくる。 思えば櫂斗には友達がいなかった。自分の性指向が話せないのもあり、そしてまた先生というイメージを強く守ろうとしていたのもあり、弱い繋がりでさえ作ってこなかった。 いい歳して恋愛していない自分を否定され、公務員になれなかったのも否定され、ゲイであることも否定されてきた櫂斗。それが、櫂斗の過去も知った上でそばにいてくれる人がいると知って、目頭が熱くなる。 「亮介……お前何で肇に全部話したんだよ……」 落ちてくる涙を拭いながら、櫂斗は聞いた。肇からタオルを持たされ、ますます涙が溢れてくる。 「もう櫂斗を泣かせたくないから。俺の贖罪のつもりで肇に聞いてもらった」 そのうち怜也にも話すつもりだ、と亮介は言う。 「でも今回泣かせちゃったな。ごめん」 うん、と櫂斗はうなずくと、肇に「明日もあるだろ? もう遅いから帰れ」と促される。櫂斗は肇と湊にお礼を言って深々と頭を下げ、家を後にした。 それから櫂斗と亮介は無言で帰路に着く。駅まで向かう時も、電車に乗っている時も一言も話さず、ただ自宅への道を辿っていた。 でも、二人は言葉を使わずともお互いに何を考えているのか分かっていた。相手が欲しくて欲しくて、つい歩くのも早くなる。 自宅に着いてドアが閉まった瞬間、お互いに抱き合い貪るようなキスをする。キスをしながらかろうじて靴を脱ぎ捨てて廊下に上がると、それぞれ相手の服を乱暴に脱がせていった。櫂斗はもうそれだけで下半身に熱が溜まってしまい、亮介のジーパンに手を掛けると、彼のソコも熱く硬くなっていた。櫂斗は鳥肌が立って、ぶるりと身震いする。 亮介は櫂斗のズボンを下着ごと下ろすと、櫂斗はそれを蹴って脱ぎ捨てる。櫂斗は深いキスをしながら、こんなに性急なのは初めてだな、と脳が焼けそうなほど興奮した。 櫂斗は亮介の頬を包んで唇を舐める。亮介の息が上がっている事にもゾクゾクして、身体を震わせると唇が離れた。その隙に身体を反転させられ壁に手を付くと、息つく暇もなく熱い亮介が入ってくる。 「んっ、んんんんーっ!」 ガクガクと身体が震え、入れただけなのにこれ以上無いくらい興奮してしまい、櫂斗は分身から精液と潮を出してしまう。 後ろに入った亮介が熱い。それだけで軽くイキそうなのに、彼は櫂斗を腕で包むように抱きしめると、遠慮なしに腰を振った。 「あっ、……っ、……っ!!」 櫂斗は悲鳴のような声を上げてまたイッてしまう。絶頂の快感に耐え、詰めた息を吐き出すと、すぐにまたイク感覚がし、太ももが震える。 (ヤバい、このままイキっぱなしになっちゃう……っ) しかし、いつもなら櫂斗をもてあそんで楽しんでいる亮介が、今日は櫂斗がイッても腰を止めなかった。ピッタリと身体をくっつけて、奥に、もっと奥にと櫂斗のいい所を突いてくる。 パンパンと、肉がぶつかる音がいやらしい。耳元で聞こえる亮介の吐息がゾクゾクする。一瞬視界と意識が飛んで、またイッたのだと分かった。 「亮介……っ、ヤバいっ、オレ……っ!」 そう言うと、また身体が震えて絶頂する。本当に止まらなくなってしまったようだ。 「うん……櫂斗の後ろ、スゲー良いよ……おかげでもう、イキそうだ……っ」 後ろで亮介が息を詰めたのが分かって、櫂斗はそれにも感じて絶頂した。 はぁはぁと荒い呼吸をしていると、亮介が身体を引いた。てっきり出ていくものだと思っていたら、再び中に押し込まれて櫂斗は思わず首を捻って亮介を見る。 「ちょっと? ……っ、だめ、それダメ……っ」 亮介は再びゆっくりと楔を打ち込んできて、櫂斗は慌てた。それと同時にゾクゾクが止まらなくて、そのままイッてしまう。 「いつも手加減してやってんだぞ? 俺が全力出したら、本当に壊れるかもな」 耳元でクスクス笑う亮介に、櫂斗はそれすらどうしようもなく感じてしまい、ビクビクと背中を震わせまた絶頂する。それでもまだゆっくりと動き続ける亮介に、櫂斗はついに足の力が抜けてしまう。 「おっと」 亮介は支えてくれたものの、後ろから彼が抜けてしまい、その刺激で櫂斗は二度目の射精をした。 「んんっ、ん……っ」 後ろから亮介の体液がトロリと出てくる。その感触に櫂斗は悶えていると、そのまま亮介が遠慮なしにまた入ってきた。櫂斗は悲鳴を上げ、床に顔を突っ伏す。 「悪い悪い、抜くつもり無かった」 亮介はそう言って、軽く突きながら笑った。櫂斗は首をイヤイヤと振って叫ぶ。 「ああっ! 亮介……っ! イク! ……っ!!」 櫂斗は息を詰め、止まらない絶頂に息も絶え絶えになり、酸素不足で視界が霞んでいった。それでも、櫂斗はこの状態になるのが良くて、もっと、とうわ言のように呟く。 「ああ? そう言いながら失神しそうじゃねーか」 俺が全力出す前に逝くんじゃねーぞ、と亮介は櫂斗に重なるように身をかがめた。そして音がする程強く、早く腰を打ち付けてくる。 櫂斗は思わず掴まる所を探して手を彷徨わせ、床に爪を立てた。そこへ亮介の手が重なり、櫂斗はそれを力の限り握ってまた絶頂する。 苦しい、けれどそれがいい、と櫂斗は揺さぶられながら思う。そして、両想いになった相手とこんなに激しく愛し合えるなんて、と涙が込み上げて溢れていく。 「亮介……っ、もっと! もっとちょうだい……っ!」 もう何回イッたのかも分からない。櫂斗は朦朧としながら亮介を求め、亮介もいつも以上に櫂斗を愛した。 「本当に、お前は快楽に貪欲だよな……そういうところ、好きだよ」 そう亮介に耳元で囁かれたのを最後に、櫂斗はもう訳が分からなくなって意識が途絶えた。

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