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飲んだくれの師匠と魔女っ子の弟子<ハロウィンSS 2>
この人に何を言っても無駄なので、無視して街へ行くことにする。
起こしたってどうせ訳の分からないことを言って、だる絡みしてくるだけだ。
眠っているテオを放置して、俺も自分の部屋へ戻る。
この後は適当に魔女っぽい恰好をして、街の見回りついでにお祭りを見て回ろう。
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とんがり帽子を深めに被り、黒いローブを羽織って短いブーツを履いた。
黒い羽が横に付いている銀縁の黒い仮面を付けて準備完了だ。
このローブはパンツを履かない羽織るローブで少し丈が短めだから、足がスースーする。
この扮装だと知らない人が見ると、俺ってことが分からないみたいなんだよな。
魔女がアレーシュに来るのは珍しいから、魔女の恰好をしているのはほぼ魔塔の魔法使いのはずなんだけど……街の人がしている可能性もあるから何とも言えないか。
「みんな楽しそうだな。今のところ大きな問題も起きてないみたいで良かった」
街は色々な扮装をした人たちで溢れている。
中にはエルフの恰好をしている人もいて、本当にエルフなのか分からないくらいだ。
今は少しの間だけ変身できる変身薬というものもあるらしい。
普段は販売禁止だけど、このお祭りの時だけは三十分限定で変身可能だとか。
狼の耳と尻尾を持つ男性と、猫の耳と尻尾を持つ女性とすれ違った。
獣人に変身すると、耳と尻尾が生えてくるみたいだな。
魔族に扮装することは禁止だけど、角飾りや牙をつけることは禁止されていない。
「どうしようかな……」
大体街の通りも確認したし、少し人気のないところへ移動して休むことにする。
街の広場の一角、大きな木の下のベンチへ腰かける。
噴水の側で踊っている皆を眺めた。
「みんな楽しそうにしているな。良かった」
道中で買った甘い果物を丸ごとくり抜いて作られた飲み物を抱えてのんびりとストローで吸い上げていると、隣に誰か腰かけてきた。
気になったので、そっと横を向いて確認する。
薄暗いし顔は灰色の仮面で隠れていてよく分からないけど、赤い瞳を見ていると何故か誰かさんを彷彿とさせる。
普段赤い瞳のテオを見ているせいかもしれない。
頭にはぐるりと丸まった角が生えていて、服装は貴族風の黒で統一された服だ。
銀糸の刺繍が施された服は一見高そうに見えるし、ベストとマントも全て黒。
白いひらひらとしたシャツに胸元には金のブローチが留まっている。
首元もレースでふわふわとまとめられているし、足元は黒のきっちりとしたブーツなのを見ると貴族の人が角を生やした扮装なのかな?
髪の毛は綺麗な黒髪で、紺のリボンで括られている。
腰くらいまでの長さだ。
足を組んで座っているけど、気品があって格好良い所作に見惚れてしまった。
「お嬢さん、お一人ですか?」
「え? ええと……はい」
低い声だけど口調は丁寧だ。
俺のことを女性だと思っているみたいだから、少しだけ高めに声を出して返事をする。
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