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大人のチョコレート<バレンタインSS 1>

 ※全四話テオドール視点。アルファさん、ムーンさんに投稿したものと同じお話です。  +++  用事があって王宮の方へ来たが、今日はやたらとそわそわしているヤツが多いな。  さっきディーの部屋の近くですれ違ったウルガー曰く、チョコレートに愛を込めて好きな人に渡す日らしい。  そんな日なんて聞いたことねぇんだが、ここ数年流行ってる習慣で騎士たちもお目当ての子からいくつチョコレートをもらえるかと気になって落ち着きがないみたいだ。  ウルガーにどうせもらえてないんだろう? と揶揄ってやるつもりで聞いたってのに、こう見えても俺はモテるんですと紙袋に詰まったたくさんのチョコレートを自慢された。  まあ、騎士は街へ行くことも多いし顔も知られてるってことだよな。  魔法使いは基本引きこもりだから、出会いを求めるヤツにとっては不利だよなぁ。  騎士は見た目も鎧の派手さが目立つが、魔法使いはローブで顔を隠してる時も多いから暗そうだって言われることも多い。  俺は街へ出てふらふらしてるから街のヤツらとも交流してるが、魔塔から一歩も出ずに研究ばっかりしてるヤツもいる。  そもそも、もらえる機会がねぇヤツばっかりかもしれねぇな。  +++ 「テオドール様ももらえるといいですね、本命チョコ」 「あぁ? 本命チョコだぁ?」 「チョコレートにも種類があるんですよ。義理で渡す義理チョコ、友達同士で交換する友チョコ。で、想いを伝える本命チョコと。まあ、他にもあるんですけどやっぱり本命ですよ」 「本命ってことは一番好きなヤツにあげるってことだろ? 俺は甘いもんは別に好きじゃねぇからどうでもいいけどな」  俺が適当に流すと、ウルガーはこれだから……とワザとらしくため息を吐いてみせる。 「そんなこと言って。レイヴンがくれなかったらどうするんですか? レイヴンは常に知識を吸収してますから、きっとチョコレートを渡す風習も勉強済ですよ?」 「レイヴンは自分が食いたいから、自分用で買うんじゃねぇの? 俺はどっちかって言うと酒がいいな」 「チョコレートにはお酒入りもありますから。きっとレイヴンのことだから気を遣うんでしょうね。テオドール様、ちゃんと受け取ってあげてくださいよ?」 「お前に言われなくても分かってるっての。その時は自慢してやるよ」  +++  ウルガーにどうでもいい知識を吹き込まれたが、レイちゃんが俺のためを思ってくれるってんならもらうしかねぇよな。  この場合、俺も用意した方がいいのかよく分からねぇがもらってから考えればいいだろ。 「さあて。今日は大人しく部屋にいりゃいいか。ホントは酒場の姉ちゃんからもらえるかどうか試してみたい気持ちもあるんだがなァ。レイヴンにバレたらへそ曲げそうだしな」  レイヴンの不機嫌になった顔を想像すると、口元が自然にニヤケちまった。  そうと決まればさっさと部屋に戻るか。  城の中庭へ出て、移動(いつもの)を行使した。

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