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第3話

 ――どこだ、ここは。  目を開けると見知らぬ天井があった。  確か俺は神代先輩から返して貰うCDを落としてしまって、それで――。 「おお冬弥! 目を覚ましたか!」  視界の隅にぼんやりと黄色い人影が見えた。徐々に目が慣れてくるとそれが俺を覗き込む司先輩だと分かる。少しずつ視界が開けていって、ここが保健室のベッドの上であることが分かってきた。 「司先輩……?」 「類から倒れたと聞いて委員会が終わってから飛んできたんだ。もう具合は悪くないか?」  そう言って司先輩が俺の頭を撫でる。いつの間にか大きな男の手となっていた司先輩の手は俺がもう小さな子供ではないことを否が応でも知らしめた。  上半身をベッドから起こすとまだ頭が鉛の様に重くずきずきと響く。 「うっ」 「ああほら無理をするな。類が庇ったから頭は打っていないと思うが……響くか?」 「いえ、そういうわけじゃ…………神代、先輩は……?」  神代先輩が俺を庇ったと聞こえた。どんな倒れ方をしたのか覚えていない。前方面へなのか後ろ方面へなのか。神代先輩はどんな風に俺を庇ったのだろうか。『庇った』という言葉の中に俺の代わりに神代先輩が負傷したというニュアンスが含まれている気がした。  神代先輩に謝らないと。CDを落としたのだって元はと言えば俺の責任だった。神代先輩の指先が触れた瞬間、体中が熱くなって何も分からなくなった。 「類はな、実はちょっと凹んでいる」  司先輩が意地悪めいた笑みを浮かべるのと同時に俺に見せてきたのはあの割れたCD。 「違っ――、あれは神代先輩のせいじゃなくて……!」 「冬弥に嫌われていると思ってる」 「ッ……!」  どくんと心臓が大きく鳴った。  『好きではない』ことに気付かれていた。しかも神代先輩本人にだけではなく司先輩にも。  こんな俺のことを司先輩はどう思うだろうか。 「――本当は、違うんだよな?」  言葉の代わりに俺の目からは涙が流れ出ていた。  司先輩の優しい声。普段よりも柔らかで、俺を抱き寄せて背中をそっと叩く。 「分かってる。冬弥が本当は類を嫌いじゃないこと――」  ――ごめんな、冬弥。  司先輩が小さな声でそう言った。  どこまでも優しい人だ、だから俺は貴方のことがずっと好きだったんです司先輩。

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