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第1話(5)
それでも「帰れ」とは言わない店長は悪態をつきながらベッドの下に落ちていた自分の革靴を拾って玄関に置くとキッチンで手を洗い始めた。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出すとグラスに注いで、僕に無理矢理押し付けてくる。
「ども」
受け取ってそのまま目で追うと、店長はキッチンに戻って一気にグラスの中身を飲み干した。そして、慣れたようにあれこれ出して調理を始める。
「すぐできるから座ってろ」
相変わらず眉間に皺は寄っているが声の荒々しさはだいぶなくなっていた。
素直にイスに座ると店長が手際よく調理を進めていく音を聞く。
「ん」
ほどなくしてテーブルには黒いマグカップに入ったコーヒーが置かれた。すぐに木のワンプレートが運ばれてきて、そこには厚焼き玉子のサンドイッチ、レタスとミニトマトのサラダ、リンゴとオレンジまで。
「さすが」
「何年カフェで店長やってると思ってんだ」
ムッとしながらイスを引くと、店長は向かいに座って手を合わせた。
「いただきます」
にこっと笑っても店長は眉間に皺を刻んだままガッと大口でサンドイッチを口に入れる。
「……店長って身長何センチですか?」
サラダを口にしながら尋ねると、コーヒーを口にして店長はガンと雑にカップを置いた。
まぁ、立ってるだけでビビられる人だからそんな荒々しい態度なんかは普通竦み上がるのかもしれないが、僕は慣れたもの。
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