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第3話(4)

「今日は早いですね?」 「たまには帰ってお酒でも飲もうかなって」  言いながら垂れた黒髪を耳にかける。 「いいですねぇ」 「さくらくんにお酒のイメージないけど」 「僕、21ですよ?お酒飲める年齢なんで」  笑ってお釣りを返した。  最後の客を見送ってドアを閉めるとそのまま内から鍵を掛ける。  客席に行ってテーブルに残るグラスとおしぼりをサービストレーに乗せてカウンターに置くと、布巾を持って全部のテーブルをもう一度拭いてまわった。  テーブルの花を回収してそれもカウンターに並べる。  レジに戻って最後の伝票を閉じて金額チェックをすると、キッチンから店長が出てきた。 「レジOKです」 「ん」  その巨体に向かって声を掛けると、店長は答えたんだかわからないような声を漏らしただけでショーケースを開けて残ったケーキを出してカウンターに置く。  またキッチンの中に戻っていくのを見送って軽く息を吐き出すと、 「佐倉」  急に呼ばれて僕は首を傾げた。  カウンターには小さなケーキの箱。 「持って帰れ」  中には売れ残っていたフルーツロールとフロマージュブラン。 「あと、これは……いるか?」  なぜかムッとしながら出されたのは巨峰のジュレ。今日は売り切れになったはずのものだ。 「え?僕の分残しててくれたんですか?」 「……奥に残ってただけだ」  店長、愛を感じるよ?

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