33 / 255

第5話「やめろ」

 額に何かが触れた気がして目を覚ます。 「あ、起こしたか?」  ぼんやりとしながら声の方を見ると、店長はネクタイを外して首を鳴らした。 「あ……お疲れ様です」  喉の痛みもなく頭も次第にスッキリしてきて僕は上半身を起こす。 「飲むか?」  差し出されたグラスに口を付けると、ふんわりと柚子の香りと甘みが広がった。  お店でもこの時期人気があるアイス柚子ティーだ。 「熱は下がったっぽいが一応測れ」  雑に体温計を投げられて脇に挟むと、店長は空いたグラスを持ってさっさと部屋を出て行く。  店長が帰ってきたということは……何時だ?  閉店して明日の仕込みもしてきただろうから、少なくとも21時は過ぎているはずだ。  時計もないこの部屋で起き上がったついでに視線を動かすと、サイドテーブルに僕のスマホも置いてあった。  手を伸ばしてスマホを持つと、まだ20時半にもなっていなくて首を傾げる。  いつもならバイトがクローズの仕事を終えて着替えて店を出るような時間。店長は残ってまだ仕込みをしている時間だ。  気を遣わせた?  考えているとドアが開いて店長が顔を出す。 「メシ、ここで食うか?それかこっちまで来れるか?」 「あ、行きます」  返事をすると、店長は「ん」とだけ言ってすぐに顔を引っ込めてしまった。

ともだちにシェアしよう!