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第5話「やめろ」
額に何かが触れた気がして目を覚ます。
「あ、起こしたか?」
ぼんやりとしながら声の方を見ると、店長はネクタイを外して首を鳴らした。
「あ……お疲れ様です」
喉の痛みもなく頭も次第にスッキリしてきて僕は上半身を起こす。
「飲むか?」
差し出されたグラスに口を付けると、ふんわりと柚子の香りと甘みが広がった。
お店でもこの時期人気があるアイス柚子ティーだ。
「熱は下がったっぽいが一応測れ」
雑に体温計を投げられて脇に挟むと、店長は空いたグラスを持ってさっさと部屋を出て行く。
店長が帰ってきたということは……何時だ?
閉店して明日の仕込みもしてきただろうから、少なくとも21時は過ぎているはずだ。
時計もないこの部屋で起き上がったついでに視線を動かすと、サイドテーブルに僕のスマホも置いてあった。
手を伸ばしてスマホを持つと、まだ20時半にもなっていなくて首を傾げる。
いつもならバイトがクローズの仕事を終えて着替えて店を出るような時間。店長は残ってまだ仕込みをしている時間だ。
気を遣わせた?
考えているとドアが開いて店長が顔を出す。
「メシ、ここで食うか?それかこっちまで来れるか?」
「あ、行きます」
返事をすると、店長は「ん」とだけ言ってすぐに顔を引っ込めてしまった。
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