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第5話(4)

「…………とにかく早く食え。送ってやるから」  言われて手を離すと、店長はキッチンに消えて行った。  ガコンと冷蔵庫が開く音がしてグラスにお茶を注ぐ音も聞こえる。  僕は無言でただオムライスを口に運んだ。  おいしいのがやっぱりムカつく。  僕だって出会系アプリで出会って複数とヤるのがいいとは思っていない。  でも、アプリじゃないと簡単に相手が見つからないのは……そこら中に溢れている異性愛者にはわからないだろう。好みの相手なんてリアルではほぼ見つからないのに。  勢いのままグラスのお茶で一気に流し込む。  そのまま立ち上がると、店長に片手で頭を掴まれた。 「……何ですか?」  ちょっとムッとしながら、大きくて骨ばったその手を退ける。 「送ってやるつっただろ。すぐ片付けるから待ってろ」 「別に男ですし?そんな気遣い……」 「その男が今朝絡まれて首絞められてたんじゃねぇのか?」  睨まれて黙ると、店長は僕を再びイスに座らせてさっさと洗い物を始めた。  たまたまの大ハズレ。でも、それで気を失ったのは確かだった。  しかも、熱まで出して1日寝込んだのも……。

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