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第5話(8)
「痛ったぁ……」
頭を押さえてため息を吐くと、店長は口元をこれでもかってくらい拭いながら顔を真っ赤にしてブツブツと文句を言う。
店長、知ってる?そんな反応、むしろアガるんだよ?
「お前、フザけんな」
立ち上がった店長を下から眺めるとかなりデカく見えた。
僕は普段気にすることもない洗面所のドアなんて頭どころか目潰しになりそうだし。
「いいからちゃんと飯を食ってちゃんと寝ろ!朝日浴びてちゃんと人間になっとけ!」
「いや、人間ですし」
「うっせ!明日、バイト無理なら早く電話しろよ!」
革靴を履く後ろ姿を眺めつつ、帰らせたくないなんて柄にもなく思っているあたり。
僕は結構店長にハマっているんだろうなぁ。
手を振ることも振り返ることもなくパタンと閉まったドアを見つめる。
店長の大きな手が頭に触れた感覚。
ぶっきらぼうなのに何だかんだ世話を焼いて今日1日面倒を看てくれたのは店長で……。
「……好きだなぁ」
ぽつりと呟いた言葉は聞いて欲しい|店長《ほんにん》には届かない。
目を閉じて汗をかいて着替えさせられた店長のシャツの裾を握る。
転がってその肩口に顔を向けると店長の優しいようなあのベッドにあった安心する匂いがして素直に寂しいと思った。
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