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第6話(10)
“僕のモノになってくれません?”言ったら……どうなる?
口から出そうになった言葉を飲み込んで微笑む。
「水、要ります?」
「んー?要らねぇ」
またゆったりとカップに口をつけるのを見て、僕は小走りで水の置いてあるカウンターに向かった。
あんなリラックスした感じのちょっと色気ある姿なんて見ていたら押し倒しそうだ。
「あ、元栓止めてっから水出ねぇだろ」
必死に抑えているのにいつの間に来たのか店長が覆いかぶさるように僕の後ろから手を伸ばしてくる。
背中に感じる店長の温もりとちょっと香る店長の匂いにクラッとした。
ヤバい。反応した。
カウンターにくっついたまま僕は動きを止める。
初心な童貞じゃあるまいし……何で?
やたらドキドキする胸に無意識に手を伸ばした。
「おら」
腕を伸ばして元栓を開けて水を入れてくれた店長は気にした様子もなくグラスをくれる。
「あ、ありがとうございます」
自分でもわかるくらい動揺したような声。
「ん?どーしたんだよ」
さすがに店長も気づいたらしくて顔を覗き込んできた。
開き直ってその襟元を両手で掴んでキスをする。
「んなっ!!」
勢いよく腕を振り上げて逃げようとする店長を素直に離した。
もう一度引き寄せて思いっきり舌を入れてやりたかったけど……そんなことしたら止まらなくなりそうだったから。
「お、お前っ!!」
「お礼です」
ふふっと笑いながら余裕を見せると、店長は容赦なく拳を僕の頭に振り下ろした。
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