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第7話「ダメだ」

 逃げるように走ってアパートに辿り着いた僕は電気も点けず靴を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込む。  いつもなら直行するシャワーも今日はそんな気力さえない。  暗いはずの室内に光を感じて顔を上げると、スマホが着信を知らせていた。 「……何?」  見つめていても切れることがなさそうで、とりあえず応じる。 『ははっ、何?不機嫌?』  電話の向こうのナルは笑いながら楽しそうな声を出した。 「切るよ」 『おい、待てって!……はぁ』  聞こえてきた声に吐息が混ざっていて、僕はスマホをベッドの上に置いてまた突っ伏す。  ヤりながらかけてくるのはこれが初めてではない。  どうせたいした用でもないだろうし、わずかに聞こえる程度で十分だ。むしろ、切ってやったっていい。 『サク……んっ……来るか?…………サク?』 「悪趣味」 『いいじゃん。……今日、お互いリバ……はっ、あっ……ちょっ、待っ!』  完全にスパイスにされている気がしてムカついてきた。タップして通話を終わらせると起き上がってため息を吐く。  あんなナルの声を聞いても全く反応してはいない。さっきは店長がただ後ろに居ただけであんなヤバかったのに。  だが、その僅かな温もりを思い出しただけで反応しきったソレを見つめて僕はベッドに仰向けで倒れ込んだ。

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